第6章 悪夢の後日談
クラウスさんは異論があるのか、わずかにうなる。
「今のお坊ちゃまの体重は1tを越すと思われます。対するカイナ様は1kg弱」
さすがというかコンバット・バトラーの本領発揮。
主人が動物になろうと、ギルベルトさんの毅然とした態度は崩れない。
「ご一緒に寝るのは、あまりに危険すぎます」
今のクラウスさんが寝返りを打って私をつぶそうもんなら、わたくし、翌朝スルメになって発見されますな。
……いや人間同士の時点でも結構危険だったですよ?
136kgの巨体に何度つぶされかけたことか。
私はクラウスさんの頭に乗っかったまま、大あくびをした。
「カイナ様。今日は客室でおやすみ下さい。ご案内いたしますので、どうぞこちらに」
はーい。
……というか案内も何も、ここ私の家なんですが。
しかし猫ゆえツッコミも出来ぬ。
伸びをし、クラウスさんの頭をつたって下り、ギルベルトさんのとこに行こうとすると。
パクっ。
またかーっ!!
クマの口に閉じ込められ、哀れな子猫の悲鳴が上がる。
ギルベルトさんは困ったように、
「お坊ちゃま。先ほど申し上げた通り、ご一緒に休まれるのは大変危険で……」
クラウスさん、『大丈夫だ』と言いたげにうなった。
「ですから……」
クラウスさん、一切引かない、動かない、譲らない。
私はお口の中でモゾモゾし、助けを求める悲鳴を上げた。
「クラウス様……」
……。
…………
「ではおやすみなさいませ。お二人とも」
ギルベルトさんが深々と一礼し、部屋のドアを閉めてくれた。
ミギャーっ!! ギルベルトさんの裏切り者ーっ!!
クマの口からペッと吐き出され、子猫は激怒モードで部屋中を走り回る。
……まあコンバット・バトラーとはいえご老体。
主人であるが、今や世界一凶暴なヒグマとなったクラウスさんと戦うのは荷が重いわな。
私は怒りに満ちてゴロゴロ部屋中を転げ回り、出口を探した。
でもどの窓にも届かない!!
クラウスさんはと言うと、よっこいしょと横になり、前足に頭をのっけ、私を見ていた。
くそ! 見てろ! 必ず逃げ出してやる!
…………
疲れたー。
小さな身体ではスタミナも短い。私は床の途中でへたばった。
もうあきらめた。寝よ。