第6章 悪夢の後日談
■クマふたたび
某日。
私はモテ期に突入していた。人生で二度と無いだろうと思っていた、モテ期に。
「カイナさん、こっちこっち!」
「ああ~カイナっち、可愛いわあ!!」
「カイナ、こっちに目線お願い」
ライブラの皆がデレまくりで私を囲み、蝶よ花よとチヤホヤする。
さて、私にいかなる事態が起こったか!?
ミー。
瞬時に皆、でれ~っとなる。
「可愛い……」
チェインさんがスマホで写真撮りまくり。
はい。真っ黒子猫、再びです。
私は今、世にも愛らしい黒毛玉となっております。
まあ理由は例によってヘルサレムズ・ロットの何やかんやです。数日で治るそうです。
しかし、皆様にいかに愛されようと、これは仮の姿。
中身は平々凡々の私であるからして、人間の理性を保ちつつ謙虚に行きたいと思っております。
……爪がむずむずしてきた。
「あー、カイナさん!! ソファで爪とぎしちゃダメですよ!」
「ほら! こっちの高級爪とぎの方がずーっといいわよ!!」
ソファで爪とぎしようとしたら、皆さん慌てて猫用爪とぎを持ってらした。
ソファの方がいいんだけどなーと思いつつ、立てかけてもらった猫用爪とぎでバリバリ。
「可愛いわ! ちっちゃいおててで一生懸命爪とぎしちゃって!」
K・Kさんが一番デレまくり。
チェインさんは、やはり無言でスマホ録画モード。
「見てるだけで癒やされますね」
と、微笑ましげに見てるツェッドさん。
「カイナさん、ちょっと鳴いてもらっていいですか? ミシェーラに音声を送りたいんで」
ツッコミ担当のレオナルドさんまでが、こんな調子。
みーみー。
わたくしが愛くるしい鳴き声で、さらにキャーキャー言われてると、
「おい、おまえら! いい加減にしろ!!」
唯一冷静なスティーブンさんが、皆をどやしつけた。
「ここは猫カフェじゃないんだ。クラウスを見習い、さっさと仕事に戻れ!」
『…………』
一同、沈黙。私は舌で身体を毛繕い。
はてさて、皆が見てるものは何か。
ライブラのオフィスの中心地。
クラウス・V・ラインヘルツの執務デスク。
そこに、いつもある高級チェアは取り払われていた。
代わりに――巨大なアラスカヒグマが鎮座していた。