第6章 悪夢の後日談
「カイナ、少しいいだろうか?」
昼休みになった途端、クラウスさんにウキウキと呼び出された。
「こちらの部屋に入ってくれたまえ」
と、狭い個室に通された。
いや、まさか事務所でヤルとかは無いよね。まだ昼間だし、ドアの向こうにスティーブンさんとかいるし。と、ドキドキしながらクラウスさんのところに行くと。
まず私にキスをし、クラウスさんは楽しそうに、
「今回の件は、私が君を満足させられなかったことが何よりも大きい」
「い、いえ、そういうのは家でしましょうよ……。え、そういう話だったっけ?」
それ、いつもクラウスさんが使う『多少強引でも最終的に気持ち良くさせればOK』というクソ理論では?
「そういうわけで、我々はもっと広範囲に可能性を模索すべきではないだろうか?」
「いや、私は今ので十分に……だから、ここは職場だしそういうのは終わってから――」
そういえばこの後、ディナーとホテルの予約があるんだっけか。
そしてクラウスさんは、私のドン引きを(恐らく故意に)スルーし、私の両手を握って目をキラキラさせ、
「とりあえず、まずは『縄』を使ってみようと思う。初回は簡単な縛り方にするし、決して痛い思いはさせないから安心して欲しい」
…………。
『初回』って言ったぞ、この人。
どんだけ私を縛りたいんだ。隠された性癖がどんだけ広大なんだ。
だがもう諦めた。耐えられないときは殺す気で抵抗するしかない。
でないと全力で丸め込んでくるんだ、クラウスさん。無駄に頭が良いから!
「お、お、お、お好きに……なさって下さい……」
するとクラウスさんはパァァっと明るい顔になり、
「ありがとうカイナ。君は本当に聖女のような女性だ。約束しよう!
今宵は必ず君を満足させると!」
ンなもん約束されても困るわっ!!
そしてクラウスさんに抱きしめられながら、冷たい目で入り口を見る。
ドアをそーっと開け、中の様子をうかがう番頭とクズ。
二人に中指を無言で立てた。
ドアは速やかにしまる。
「キスをしていいだろうか?」
「どぞ……」
そして私は、死んだ魚の目で婚約破棄の文面を考える。
今日も私たちは、仲良しラブラブカップルであった……。
――END♡