第6章 悪夢の後日談
「どうか先日の件の赦しを。君に嫌われることだけは、耐えがたい」
「……あの、去勢とか恐ろしいことは考えないで下さいね?」
クラウスさんはちょっと目を見開き、苦笑した。
「それはさすがに断念したよ。君の怒りの深さに、頭をよぎったことは事実だがね。
だがいずれ私と君は子を為す。その際に深刻な障害となってしまう」
お、おう。
「ミス・エステヴェスにも相談したが、やはりそういったことは治療が非常に難しいそうだ」
ルシアナ女医に話したんかい。ある意味セクハラでは……。
ドン引きしていると、手をつかまれた。
「だが、私は決して諦めない。私と君が満足出来る妥協点を探し続けよう。
だから私のために耐えるとか、受け流すとか、そんなことは決してしないでほしい。
何度も言ったように私たちはパートナーだ。どんな困難も共に乗り越えよう」
「クラウスさん……」
私は手を握られたままクラウスさんを見上げ――。
「カイナ?」
ススッと離れ、枕元まで後じさり。
そして枕をむんずとつかむと、
「何、話をすり替えてんだ、ボケがぁーっ!!」
全力で敵に枕をぶつけた。
「カイナ……その、本当にすまないと……」
「やかましい!!」
私は枕でバンバンと婚約者を叩く。
クラウスさんは一応、目元だけは庇うポーズのまま、怒られてる大型犬状態。
「私が耐えなくていいなら、あなたが我慢するだけ! それで終わる話なのに、何、二人で道を探そうとかきれい事言ってんですか!!
変なワードで検索するとか病院に行くとか、それらしい体裁を保とうとする小賢しさが余計に腹立つっ!!」
「いや、私は決してそんなことは――」
分かってはいた。分かってはいたが、クラウスさんは私以上にワガママなのだ。
他人にあまりにも寛大なため気づきにくいが、自分がこうと決めたことについては1mmたりとも譲歩する気がない。
今のクラウスさんの言う諦めないとは――私が譲るまで諦めないという意味なのである。
「自慰で耐えるとか女を買うとか、未だにそんな発想が一片たりとも出てこないことに戦慄するわ!
結局、そこに穴があるから入れたいだけでしょう!
動物か! アラスカヒグマか!!」
激怒して怒鳴った。