第6章 悪夢の後日談
「世界の均衡のため、クラウスには常に万全の体調でいてもらわなくては困る。
そしていずれ彼の伴侶となる君には、彼を万全の体調にする義務がある」
「だから何をされても笑って許せと?」
「端的に言えばその通りだ」
容赦ないなあ。
「君たちのプライベートに首を突っ込むのは本意では無い。
だが『夜に関する非常に些細なすれ違い』を除けば、クラウスは完璧な男だ。そうだろう?」
「え……はあ……」
「クラウスは己の過ちをきちんと反省し、再発防止策を考慮する。
常に君の幸せを考えている」
「いえスティーブンさん……」
「犯罪は許しがたいが、彼は過ちを認めている。
君の好意につけ込む横暴な伴侶になる可能性は皆無だ。
ただ一点――君が『些細なすれ違い』さえ享受してくれれば、全ては丸く収まるんだ!」
「いえ、でも、でもですね……」
「クラウスは君を救った。知識としては覚えているだろう?
奴は君という存在を、魂を、あの地獄にも勝る惨状から助け出した!」
「――――!」
世界均衡のためなら、私の古傷までえぐるか!?
だが私がひるんだのを、番頭は見逃さなかった。
「クラウスがいなければ、今の君はない。奴はただ君を愛しすぎているだけだ。
なのに彼の愛に向き合わず、ただ背を向けて逃げることは正しい選択なのか?
それでクラウスが心のバランスを失い、戦闘に重大な支障が出てしまえば、それは即座に世界の命運につながる。多くの人々の、彼らの愛する家族の笑顔が失われるんだ。
それは君が望んでいることなのか!?」
一息に言い切りやがった。
「いえ……その……」
ただの痴話喧嘩がなぜ、ここまで壮大な話に……。
「聞こうか、ミス・カイナ・シノミヤ。
君にとって大切なのは『世界の均衡』か、それとも君自身の事情か?
クラウスは世界の均衡のため全身全霊を注ぎ、命がけで戦い、日々の研鑽を欠かさない。対価すら受け取ろうとしない!」
「いえ、あの……」
「ただ死闘の後、君にわずかばかりの慰めを求めるだけだ。
なのに君は、世界のため身を粉にして戦うあいつに、一瞬たりとも我欲を持つことを認めないと?
君の都合を全て考慮してくれる聖人君子でいてほしいと言うのか?」
「す、すみません……私が、間違ってました……」
……白旗を揚げた。