第6章 悪夢の後日談
「そりゃ僕だって男女の仲に割って入るほど野暮じゃない。
だが、相手はあのクラウスだ」
「あなたが疲れ果て、首を突っ込まざるを得ないほどの変化があったんですか?」
そういえば、今日は私は休みだったが。
「クラウスがザップに負けた」
「……なっ!?」
ザップは事あるごとにクラウスさんにつっかかっていく男で、それはもはや事務所の定番の光景と言っても良かった。
そしてクラウスさんは、ザップの殺意全開の攻撃を、片手でワインを注ぎながら悠々と退けるのであった。
それが、負けただと……!?
「負けたというか、そもそも戦わない。倒れはしないが、抵抗も一切しなかった。
ザップも気味が悪くなったのか、途中で止めたよ。
クラウスは仕事はしているが、それ以外ではずっと上の空だ」
淡々と、淡々と番頭殿は語る。
「かと思うと、インターネットにつないで延々と何か調べ物をしている。
仲直りのデート先でも調べてるかと思って、そっと後ろから除いたら――」
スティーブンさんは一呼吸置く。
その目に、今まで決して見たことのなかった『恐怖』があった。
そして声を震わせ、絞り出すように、
「奴は『去勢』について調べていた」
「…………っ!!」
戦慄する。
「いやいやいやいや!! 待って下さいよ! そんなことになったら――」
「そうとも。身体の重心の変化は避けられず、戦闘にどんな影響が出るか分からない」
え。戦慄するポイント、そこなの? ホントにそこでいいの?
男性としてもう少し別の箇所に、恐怖を覚えるべきでは?
「とにかく、僕には金以外にアイデアがない。だが君が希望するものは、人間だろうと概念だろうと極力用意させてもらうよ。だから――」
大人しくライブラのリーダーの性欲処理係になっていろと。
「それでいいんですか? ライブラの副官が。クラウスさんのプライベート中のプライベートのことですよ?」
さすがにドン引きしながら言うと、
「あいつは公私を分けられる男じゃない。全てを呑み込んでしまう。
そして君の存在感が、僕らに無視出来ないほど、奴の中で大きくなりつつある。
分かるか? 僕があいつの男の矜持を踏みにじってでも、君の赦しを請おうとしている理由が」
まくし立てるように一気に言われた。