第6章 悪夢の後日談
『カイナ……すまない。どうか一度だけ君のぬくもりを感じさせてほしい……』
『いやだったら……い、痛い……っ! おね、がい、クラウス、さん……』
ほとんど泣いてたんだけど、ベッドに押さえつけられ口を塞がれ、後は無理やり。
向こうも犯罪行為の自覚はあるのか、珍しくローションを使うとか気を遣ってきた。
なのでケガこそしなかったが、興奮のあまり強くつかまれた箇所は、いくつかアザになった。
意志に反して無理に動かされ身体も痛い。
さらに一度で終わるはずもなく、二回三回四回と続いた。
口を塞がれたまま漏らす泣き声は、やがてすすり泣きに変わり、最終的に沈黙に取って変わられた。
弁護の余地のない穴扱いに心は傷ついた。
しかもそこまでして耐えた結果待っていたのは――最後に生で入れられた上、顔面にぶっかけられるというものだった……。
その頃はもう、疲労と悲しさと虚しさで悟りの境地。
顔と髪に生温かいものをぶっかけられ、敵がはぁはぁと呼吸を整えているのを、涙もかれた目でぼんやりと見ていた。
…………
「カイナ……どうか……その……」
もはや言葉も浮かばないのか、紳士は泣きそうだった。
すごいなあ、私。
人類最強とまで行かなくとも、上位10人には確実に入る男をここまで追い詰めたぞ。
虚しい勝利に酔いしれつつ、悔恨に満ちた碧の瞳を冷徹に見た。
「クラウスさん。私たち、ちょっと距離を置きましょうか」
私は悲しげに微笑んだ。
「……カイナ!! それだけはどうか……!!」
紳士はトドメを食らった顔だった。
「婚約破棄はしません。でもちょっと離れて暮らしましょう。それがいいですよ。ね?」
私は最後通牒の笑みで言った。
どこぞの番頭では無いが、絶対零度の空気で。
『これを断ったらどうなるか――分かるな?』
紳士はガクブルであった。
…………
…………
数日後。
夕日指すアパートの一室。
ヘルサレムズ・ロットでは超レアな和室六畳間の真ん中で、私は沈黙を貫いている。
「やあ、なかなかオリエンタルでいい部屋じゃないか。
治安も良さそうだし、いい場所を見つけたね」
ちゃぶ台の向かいに座るスティーブンさんは、ニコニコしていた。