第6章 悪夢の後日談
■我慢しない話
※クラウスさんが外道。
それは静かな昼下がり。
巨大な霧の雲の下。私の家の温室には、それは鮮やかな緑があふれていた。
そして今、私の前に立っているのは、それは見事なバラの花束を抱えた紳士。
まるで姫君に相対するかのように、完璧な所作で片膝をつく。
「カイナ。これを君に。どうか受け取ってほしい」
手ずから大切に育てたバラの花束を、惜しげもなく私に差し出した。
私はそっと花束を受け取った。
そこで花束に真っ白な手紙が添えられていることに気づく。
私は片手でそっと手紙を開いた。
中身は、いかに私を愛しているかという真心のこもった手紙。
そしてヘルサレムズ・ロット三つ星レストランへの招待状。
多分、その後のホテル最上階予約も済んでいることだろう。
「我が片翼。この世で最も高貴なる天使。最愛なる人。どうか私と共に今宵のディナーを」
胸に手を当て私を見上げる瞳は、さながら敬虔な信者。
何て純粋で気高いまなざしなのだろう。
紳士の中の紳士。まさに真の貴族。
いったい世界のどんな女性が、拒むことが出来るのだろう。
「絶対イヤ」
「――――!!」
まあ私には拒む理由がある。
だがバラには罪はない。洗って食えば美味いし。
「話はこれで終わりです。では」
私はクルッと花束を抱えて背を向け、すたすたとクラウスさんの横を過ぎ去ろうとした。
「ま、待ちたまえ、カイナ!」
肩をつかんで止められる。
相手は規格外のバケモノなので、力ではかなわない。
私は仕方なく立ち止まる。
「何か?」
「ど、どうか理由を。私に弁明の機会を与えたまえ」
「理由? ホントに言っちゃっていいんですか?」
「…………っ!!」
婚約者はたじろいだ。
心当たりが無いはずがないだろう。
そもそもクラウスさんは、後ろめたいからこそ私をディナーに誘っているのだ。
「そ、その……口に出すことが辛いのなら無理に言うことは――」
「昨晩あなたにレ〇プされたからです」
「――っ!!」
クリティカル・ヒット。
99999のダメージを受けたクラウスさんが、胃を痛烈に押さえ、片膝をついた。