第6章 悪夢の後日談
■疲れたお話
最近、クラウスさんがお疲れである。
連日のいざこざに加え、毎週のように訪れる世界の危機、さらに『血界の眷属(ブラッドブリード)』戦まであった。
ろくに睡眠もとっておらず、疲労はピークであろう。
しかし愚痴はこぼさず、笑顔を絶やさず、皆を気遣っている。
く。我が婚約者ながら尊崇の念に堪えない。
いつもは敬遠気味な私も決意を固めた。
クラウスさんのために……何でもしたい!
…………
そして激務が一段落、何日ぶりかに家に帰り、私の部屋で二人きりになったとき告げた。
「そういうワケで、お疲れのクラウスさんを癒やすために、今日は何でもおつきあいします」
「待ちたまえ、今、婚姻届を出す」
「え。即答?――ちょちょちょっと待ったーっ!!」
引き出しからサラッと婚姻届を取ろうとした男を、全力で引き留めた。
「そういう重いのは別の機会にして下さい!!」
『流れで』的な感じで一生のことを決めるのは嫌だっ!!
「だが、今、君は『何でも』と」
残念そうに引き出しを閉めるクラウスさん。
てか何で、引き出しに普通に婚姻届入ってるの! 入れた覚えないぞ!!
「『私がOKな範囲で』クラウスさんのお疲れを癒やしたいのです!!」
後出しにも程があるけど、クラウスさんは受け入れてくれた。感銘を受けたようで、
「そうか。私のために……。
君の限りない優しさに深く感謝をする。
待ちたまえ。縄を用意――」
「縄って何すかっ!!」
さっきの引き出しにまた手をかけようとしたクラウスさんを、全力で止めた。
つか何で婚姻届入ってるのと同じ引き出しに、縄が入ってるんだっ!! 私の部屋だぞここ!!
クラウスさんは頼もしげな笑みで、
「心配は無用だ。使用するのは遊戯用に開発された品で身体に跡を残さないよう、十分に配慮されている」
「プレイでしょうが! そこを不安に思ってんじゃないですよ! そういう特殊なのダメっ!!」
最近、変な方向に目覚めてないか、クラウスさん。
「君なら耐えられる。私を信じたまえ」
「ものすごく清涼な笑顔で、恐ろしいことを言わないで下さい!」
「承知した。全ての責は、君の不安を払拭出来ない私にある。
君の心の準備が出来るまで、私は待つ」
「とっととあきらめて下さいっ!」
全力で怒鳴ったのであった。