第6章 悪夢の後日談
曰く。
最近(9割以上クラウスさんの自業自得で)、婚約者の私がクラウスさんに冷たい。
加えてゴーレム作りや、趣味の木彫りが佳境に入ると、婚約者の自分が声をかけても寝食を取らないありさま……。
えー、そうだっけ? そこまで熱を入れたことって、あんまりないですよ。
せいぜい五十回か六十回くらいで。
レオナルドさんが冷や汗かきながら、
「で、カイナさんが好きなクマになったら構ってもらえるのかなと、考えながら歩いてたら……」
『流れ星』にぶち当たったと。
しーんと、皆、沈黙した。
「す、すまない。スティーブン、皆。心に隙があった。
どうかカイナの減給処分は解いてくれたまえ。私の報酬は返納する所存」
しきりに申し訳なさそうにするクラウスさん。スティーブンさんは天井を仰ぎ、
「まあ実害はなかったし、いいんじゃないか? 減給処分は解くし、君も自主返納しなくていいよ。その代わり、二人でよく話し合え」
古なじみには甘いなあ、スティーブンさん!
あと『どっちもどっち』と言いたげなその顔は何ですか!!
「了解した。カイナ。二人で話し合おう。だから、その――」
皆をかきわけ、クラウスさんが私の方へ来るが。
シャーっ!!
私は毛を逆立て、クラウスさんの手の届かない本棚の隙間に潜り込む。
今の私? 真っ黒々な大変可愛らしい子猫ですが何か?
どうやら私も『流れ星』に当たってたらしい。
一日遅れで私の願いが叶っちゃいました☆
今の私は何の責任もない子猫。
あー、幸せ!
「カイナ。どうか許したまえ。だからその、今夜のディナーに……」
本棚の前で身をかがめ、私の方に手を伸ばすクラウスさん。
私はその手をひっかき、奥に逃げた。
「いえ、高級レストランにペットを連れて行くのは難しいのでは……」
ツェッドさんが恐る恐る言ってるが。
「カイナ。私の愛する人、どうか……」
うっさいっ!!
困ったようなクラウスさんの声と、怒れる子猫の威嚇音。
「いい天気だなあ……」
窓の外の爆炎を見ながら、ザップさんがあくびをする。
街は大騒ぎだけど、ライブラは平和なのであった……。
――END