第6章 悪夢の後日談
「いやいや! 行きませんよ!! クマの状態で血闘術使えるっつっても、ホントに大丈夫なんですか? もし事故があったらどうするんですか!?」
だがクマさん、私を急かすように前足で床を引っかく。
止めろ。お高い絨毯がほつれるでしょうがっ!
慌ててクラウスさんの正面に立ち、鼻先を押さえた。
「落ち着いて、落ち着いて!! 今、私の使い魔が偵察から戻ってくるから!
スティーブンさんの連絡も待った方が――」
くそ。野生動物がっ!! 私をじりじりと押してくる。
と、そのとき、爆音がした。家の敷地内からだ。
「ちょっと、クラウスさ――いやああああっ!!」
畜生がっ!! 私を鼻先に乗っけて走り出したっ!!
動物になったせいか、いつも以上に暴走気味みたいだ。
私は鼻先から頭によじ登り前転っ!
奇跡的に転げ落ちることなく、クラウスさんの背中にしがみつく。
そして家のドアが生体感知センサーで反応し、バタンと開く。
その瞬間に、人の内臓からみつかせた、血まみれの巨大な触手が家の中に入ってきた。
「クラウスさん!! 危ないです!!」
けど、クラウスさんは立ち上がり、
――っ!!
1tは越えるだろう、巨大アラスカヒグマのパンチの一撃!
……クマのパンチ力って、こんなにすごかったんだ。
人間の時点で、バケモノとしか思えない強さだったクラウスさん。
ヒグマ化でさらに攻撃力増強したらしい。
殺人触手は緑の体液をまき散らし、原型留めず吹っ飛んだ……。
クラウスさんは動じることなく、私を乗せて家を出る。
同時に偵察に出していた使い魔が戻ってきた。
この触手もまた、誰かの願望が生み出した生物らしい。
どうやら時間差で願いが叶うケースがあるようだ。
このあたりは大量発生した殺人触手が、生き物を手当たり次第に貪り食っているっぽい。
白猫を呪符に戻し、それをクラウスさんに伝えると、アラスカヒグマの目に、正義の光が宿る。
クマは雄々しく、街を疾駆した。
「いや、そろそろ私だけは下ろして下さい!! 誰か! 助けてーっ!!」
私はしがみつくだけで必死。
むろん、触手よりさらに凶暴なヒグマを止めてくれる善良な市民なぞ、この街に一人もいないのであった。