第6章 悪夢の後日談
「あいつが出てきたのに、何で何もしてないんすか?」
驚いてるザップさん。
堕落王フェムトは、暇つぶしに世界転覆の種をバラまく超迷惑人物だ。
だけど、ライブラの面々が動いている風には見えない。
「コトはもう終わってしまっているんだ。我々が動く段階ではない。
おまえたちが見ているのは事件の『結果』だ。
カイナ。君が乗っている、そのクマもな」
「え?」
私はクマになったクラウスさんを見下ろした。
アラスカヒグマは困った(?)様子で首をかしげていた。
…………
スティーブンさんの説明によると。
昨晩、堕落王フェムトが『願いの流れ星』なる傍迷惑な発明品を、ヘルサレムズ・ロット中に大量に降らせたらしい。
その星の光に当たった人はまさしく『願いが叶ってしまう』のだ。
よって『あいつを殺してやりたい』『あの会社消えろ』『大金がほしい』『病気を治したい』などの願いが次々に叶えられる事態が発生。
だがしかし。願いが叶うのは一日限定。
死のうが消えようが大金を手にしようが不治の病が治ろうが、明日には元通りらしい。
よって明日の大混乱は完全に確定事項。
警察組織も大わらわだそうな。
…………
「うちも警察から協力を要請されてるが、何せクラウスがこの状態だしなあ」
さして罪悪感を感じて無さそうな顔で、スティーブンさんは珈琲を飲む。
私はクマさんに頬ずりをしていたが、ハッと顔を上げる。
「ということは、誰かがクラウスさんをクマにしたいと思ったんですね!?
いったい誰がそんなことをっ!!」
『…………』
スティーブンさんとザップさん、ツェッドさんにレオナルドさん、あとギルベルトさんまでが一斉に私を見た。
私はビクッとして、
「……ち、ち、ちょっと待って下さいっ!! 私じゃないですよ!
昨日は非番だったから家にいて、流れ星なんて当たってないし!!」
クマさんの耳をつかんでピルピルされつつ、必死に抗弁した。
「建物の中だろうと関係ない。『流れ星』に選ばれた時点で、願いが勝手に叶ってしまうんだ」
「確かに私はクマが好きですけど、だからってクラウスさんにクマになってほしい、なんて願うわけないでしょう!?」
背中から下りて、クラウスさんの首筋をギューッと抱きしめた。