第6章 悪夢の後日談
■クマになられた話
至福。
至福である。私は今『世界で最も幸せな十人』の一人に入るくらいに幸せであった。
「ああクマさん……じゃない。クラウスさん、可愛い……」
夢にまで見たリアルなアラスカヒグマっ!!
昨晩、クラウスさんがお仕事で戻らなかった。
そして朝、私が出勤したら、何か知らんがライブラの事務所にアラスカヒグマがいたっ!!
どうやらこのクマさんは、元クラウスさんらしい。
そういうわけで、私はキャーキャー喜んでいた。
「いや、もう少し別の反応しましょうよ……」
レオナルドさんの声なんて聞こえない!
ちなみに、私は前からクマが好きだったわけではない。
クラウスさんと知り合い、好きになる過程でなぜか『クマが好き』嗜好が追加された。
今や、私の家にはクマグッズがあふれかえってるし、趣味の一環で木彫りのクマを彫ってるくらいだ。
だがいくら集めても、それらはまがいもの。
ゴーレムで再現しようと、クラウスさんと動物園に行こうと、本物のアラスカヒグマに触れるのは叶わぬ夢であった。
「でも! 今! こうしてここにアラスカヒグマが!! ああ、もう思い残すことは!!」
目をしぱしぱさせ、私を見るアラスカヒグマにぎゅうっと抱きつき、足をじたばた。
「で、アレは何なんすか、スターフェイズさん」
「クマジャンキーだろ」
「いや、チビの方じゃ無くてクマ本体」
スティーブンさんとザップさんのやりとりが聞こえる。
「クラウス本人だ。知性は保っているし、あれで血闘術も使えるそうだ」
私の横でクマさんがうんうんとうなずいた。
「いや何で旦那がクマになってんですか?」
「私も知りたいです!!」
クマの背中によじ登ろうとしながら手を上げた。
さすがクラウスさん。私が背中に乗ろうとしても全く怒らず、私が上りやすいよう身体を伏せてくれた。
スティーブンさんは深々とため息をつき、
「おまえたち、昨日の騒ぎを知らないのか?」
『えーと……』
ザップさんと顔を見合わせる。
スティーブンさん、さらにため息をつき、テレビをつけた。
『――街のあちこちで惨殺死体が発見され、銀行の金庫は空となり、ビルの消失も多数確認。堕落王による今回の事件の被害はさらに拡大するものと――』
『堕落王!?』
私とザップさんは声をそろえた。