第2章 告白(上)
「それじゃあな、君」
結界の向こうに消えるスティーブンさんに手を振り、ふと疑問に思ったことがあった。
「そういえば、クラウスさんって何のお仕事をされてるんですか?」
執事を連れてるし、最初は文字通りの貴族――不労所得で生活してる人なのかなーと思ってたけど、どうもそうでも無さそうだ。
何かしらの組織のボスだというのは見当がついたけど、無駄に戦闘力が高い理由も気になる。
するとクラウスさんは事も無げに、
「私は秘密結社ライブラの――」
「は?」
「クラーウスっ!! ちょっと向こうで話をしようかぁーっ!!」
格好良く立ち去ったと思われたスティーブンさんが、高速で戻ってきた。あと色男の顔が盛大に崩れている。
彼はきょとんとしてるクラウスさんを、敷地の端っこに連れて行き、何かすごい怒鳴ってた。
『巻き込みたいのか』『秘密になってないだろ』みたいな怒鳴り声も聞こえたけど、よく分からん。
その後、クラウスさんは戻ってきて、ものすごく苦しそうな顔で、
「その……ぼ、貿易会社の、オーナーを……やっている」
「そうなんだよ。ヘルサレムズ・ロットには『外』の連中が、喉から手が出るほど欲しいものが山ほどあるからね。危険はあるけど、そういった関連で仕事をしてるんだ」
スティーブンさんがすらすら説明するのが、いっそ空々しい。
けど、クラウスさんが苦痛に満ちた顔をしていたので『はあ』とあいまいにうなずくより他はなかった。
「そ、それじゃあな、君。うちのリーダーであまり遊ばないでくれよ」
さっきより少し疲れた顔をし、スティーブンさんは改めて去って行った。
今度は私がきょとんとし、
「私、遊んでませんよね? ちゃんと真面目に熱心に勉強しておりました」
クラウスさんもうなずき、
「そうだな。君は私の課題をいつも完璧に仕上げる。文章の語彙(ごい)数や構成力も、この短期間で素晴らしい上達を見せている。君の向学心の高さを私はとても尊敬している」
「ど、どうも」
褒め上手の学校の先生と話してる気分だ。
ちなみに皮肉でも社交辞令でもなく、クラウスさんは本気で言っている。
クラウスさんは全力で認める。肯定する。信じてくれる。押しつけない。
だから居心地が良く……依存してしまいそうで、ちょっと怖くなったりもする。