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【血界戦線】紳士と紅茶を

第2章 告白(上)



「それは……」


 どこか遠くで悲鳴が聞こえる。誰の悲鳴かと思ったら、自分の悲鳴だった。
『許してください、もう、一歩も進めない、です……痛い……』
 痩(や)せて傷だらけの少女は泣きじゃくり、嗚咽し、慈悲を請う。
『いいからとっとと行け』
 通信機の向こうから、イライラしたような声が聞こえる。
『だって……私、痛くて……目が見えない、喉が、痛い……皮膚が、火がついてるみたいに熱い……』
『方向は指示する。いいからさっさとPCから機密データを回収しろ』
『もう、無理です……失明した、みたいで……呼吸も……息、出来な…………助け……』
 通信機の向こうから舌打ちする音。
『蘇生後、すぐデータ回収活動を再開しろ。でなければおまえは永遠に毒ガスの中で死亡と蘇生を繰り返し続けることになる。一時間後に通信を再開する。以上』
 通信が切れる音が無情に響いた。

 …………。

「いやあ~、それが全く覚えてないんですよ。もしかしたら宝くじに当たって不死になったのかも☆」

 あははははーと盛大に笑い、紅茶を飲んだ。
「ギルベルトさん、この紅茶、最高に美味しいです! もう一杯下さいっ!!」
「ありがとうございます、ミス・シノミヤ」
「カイナ。一気に飲むよりもゆっくりと舌に含み、余韻まで味わいつくす方がいい。より奥深い発見を得ることが出来るだろう」
「いやあ、そこまで紅茶通でもないですし」

「君。何でもいいんだ、君の能力の付与に関して何か覚えていることがあれば、何でも――」

 スティーブンさんの目はまっすぐ私を貫いている。
 その目の光は、獰猛(どうもう)な狼のように――。

「スティーブン。出発の時間はまだ先だったはずだが、先方の予定が変わったのかね?」
 クラウスさんが静かに聞いた。スティーブンさんは苦笑し席から立ち上がる。
「正解だけど不正解だよ。先方の都合で会談は延期になった。君にはいいニュースだな」
「そんなことは無い。あの会談が流れたら、当面の予定に影響が出る」
「相変わらず真面目だな。一ヶ月先の話より、久しぶりの自由な夜を楽しめよ。じゃ、頑張れよ」
 ポンとクラウスさんの肩を叩き、歩き出した。
 クラウスさんもうなずき。

「そうだな。これでカイナの勉強をもう少し進められる」

 えー。勉強嫌ですー。のんびり寝てましょうよー。
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