第6章 悪夢の後日談
■小さくなったお話
困っている。私、超困っている。
「あ、あの~、クラウスさん」
「何だね、カイナ」
「あんまりジロジロ見ないでもらえます? それとお仕事をしないと」
「む。そうだった。すまない、カイナ」
「いえお気になさらず」
私はクラウスさんの手から下り、すたすたとデスクの端に向かう。
うう。『元の大きさ』なら何歩も無いのに、今は恐ろしく遠いな。
そしてデスクの端に行き、下を見下ろす。
うわ! 床が遠い! 見慣れてるデスクなのに、崖の上にいる心地だ。
「カイナ!」
ガタッと音を立て、クラウスさんが立ち上がる。
「いけない。落ちてしまう!」
クラウスさんが手で囲むように、私を危険な崖から遠ざけようとする。
でも私は『よいしょっと』と、その手の上に上がり、壁を乗り越えた。
…………
お気づきかもしれないが、今、私は手の平サイズになっております。
原因はヘルサレムズ・ロットのなんやかんやです。
この街は何でもありなので、その程度のことは珍しくないのです。
しかし、この身体だとデスクワークも出来ない。
私は家で待機するつもりだったけど、クラウスさんが心配するので仕方なくライブラに来ていた。
…………
「大げさですよ、クラウスさん。子供じゃ無いんだから」
とっとっと、とデスクの端に再度向かいながら、
「それに私、タクシー待ちなんです」
「だが――」
「ソニックー!」
口笛を吹くと『キキッ』と鳴き声がして、私の前に音速猿のソニックが現れた。
ソニックは文字通り、音速で移動する異界交配猿で、目に見えない速度で移動する。
私はいそいそとソニックの背中に乗り、
「ソニック、ソファの上に連れて行って下さい」
「キッ!」
『了解!』とばかりにソニックが飛び立つ――と思ったときには、もうソファの肘の上だった。さすが音速!
一方クラウスさんはデスクで中腰姿勢のまま、オロオロしていた。
私はソニックから下りたけど、ソニックはまだ去らず、ご機嫌で私の毛繕いを始めた。
「あはは。くすぐったいですよ。ソニック」
笑いながら逃げていると、噴き出す声。
「はは。ソニックの奴、すっかりカイナさんを仲間だと思ってるみたいですね」
ソファで笑うのはレオナルドさんだった。