第6章 悪夢の後日談
「ありえない。四十八手をやっちゃうとかありえない。ネタでしょ? ジョークでしょ? 全部やるとか馬鹿なの?
『今度は是非とも裏を』とか、マジでヤリ殺す気なの?
てか最後は合間に緊縛の本まで読んでたよね。どこまで守備範囲が広大なんですか?
クラウスさんやっぱ私を性欲処理道具としか見てないんじゃね?
私愛されてるの? ねえ本当にこれでいいの? ただれた関係に終止符を打ち自分一人で道を切り開――」
「後生です、カイナ様。どうかお顔だけでも……」
ギルベルトさんが声をかけてきたが、私は全裸で布団の中にうずくまったまま、ブツブツ独り言を言い続けていた。
…………
…………
夜、婚約者がいそいそと帰ってきた。
大輪のバラを抱え、上機嫌であった。
「カイナ。私の生涯の伴侶。世界で最も輝かしい宝石。
君と過ごす日々の何という甘美なことか! 何より愛おしい私の天使。どうか今宵も、君の愛を賜る栄誉を――」
「黙れ」
一言で退けると、ベッドにいた私はクラウスさんに背を向けた。
「カイナ」
クラウスさんはスルーし、上着を脱いでゴソゴソとベッドに潜り込んでくる。
こら。抱きしめてくんな。股間を擦りつけてくるな、変態が。
……私とクラウスさんの毒は、互いの『気』で完全に中和された。
ルシアナ先生にも、もう完全に治ったとお墨付きを頂いた。
愛の力、愛の勝利である。
……だが私は死ぬ一歩手前までつきあわされた。マジで死ぬかと思った。
あと久しぶりに噛まれた。頸動脈近くを甘噛みするのはホントに止めてほしかった。
問題は私からの好感度が下がってるのに、クラウスさんサイドは爆上がりしたらしいことだ。
「君が愛おしい。世界のどんな芸術品も君には及ぶまい。どうか愛くるしい君の唇を私に。
この恋の奴隷に一滴の情けをかけてくれたまえ」
貴族の本領発揮。薄ら寒い口説き文句を、清々しいほど堂々と使ってくる。
「カイナ。私たちの愛の奇跡を、是非とも二人で祝いたい。
モルツォグァッツァでのディナーへ君を招待させてほしい」
睦言で私が反応しないせいか、今度は物で釣ってきた。
でもあのレストランだけはマジで止めて下さい。
婚約記念で一度連れて行かれたけど、三皿目以降の記憶がないんですよっ!!