第6章 悪夢の後日談
『同様にミスタ・ラインヘルツも、カイナさんの女性の”気”で毒素が弱まり、すぐ食事や睡眠を取れるようになります。
そうなれば彼の体力が毒素に打ち勝ち、彼もまた解毒剤無しで回復するでしょう』
…………。
恐ろしいまでの沈黙。
そして、扉がギーッと、開いた。
恐る恐る振り向くと衰弱した、クラウスさんの血走った目が見えた。
ものっすごい光ってた。
『まあカイナさんには身体的負担が大きいかもしれませんが、そのへんは周りの方が助けてあげて下さい。
では何かありましたらご連絡をー』
ぶつっとスマホが切れた。
「…………」
硬直する私の手から、スティーブンさんがゆっくりとスマホを取り上げ、大きく息を吐いた。
「まあ一時はどうなることかと思ったが……大事に至らず何よりだ」
重い音がする。目を光らせたデカい獣が部屋から出、ゾンビのごとき動きで一歩、また一歩と私に近づいてくる。
「あ……あの……み、皆さん?」
呼びかけるが、
「まーたチビに振り回されたぜ。さーて、帰って寝るか」
「じゃ、頑張って婚約者を癒やしてくれよ、カイナ。
君の体力に世界の命運がかかっているんだ」
「いいいいやちょっと、お二人とも!! そりゃ悪かったと思ってますけど! 私だって言い分がっ!!」
必死に助けを求めるが、とっとと背を向けて帰る男性二名。
「ギルベルトさーん!!」
有能執事さんに半泣きで呼びかけるが、
「ご安心下さい。タオルに替えのお召し物にリネン類、衛生面は全て私にお任せを。
いやそれよりはミネラルウォーター、寝ながらお取りになれる軽食を用意せねばなりませんな」
楽しそうに去って行かれた。
そして私の身体をガシッと。巨大な熊が抱え込む。
ずりずりと私を部屋に引きずり込んでいく。
もはや逃げるすべは無かった。
「チェインさーんっ!!」
最後まで残ったチェインさんに助けを求めたが、
「Good luck」
いい感じに親指立てて、姿を消したぁーっ!!
「誰かーっ!! 襲われるーっ!! たーすーけーてーぇーっ!!」
呼べど叫べど、応える人もなく。
私はずりずりとクラウスさんの寝室、いや巨大肉食獣の巣に引きずり込まれ――重い扉が固く閉ざされた。