第6章 悪夢の後日談
スティーブンさんはスマホを取り、
「先生ですか……ええ。クラウスは今のところは理性を保っていますが……解毒剤の方は何日かかりますか?」
どうやら相手は、クラウスさんを診たルシアナ先生らしい。
「そんな……数週間も!? もっと早く出来ませんか!?」
スティーブンさんの声に焦りが混じる。
「……ええ。そう出来れば早いのでしょうが、クラウス本人は婚約者以外の女性を固く拒絶している状態です。
ですが先生もご存じの通り彼女は今、投薬治療中で――は? カイナに?」
スティーブンさんがこちらを見た。
「カイナ。ミス・エステヴェスが君に話があると」
スマホを渡してきたので、恐る恐る受け取ると、
『あ、カイナさん。調子はどうですか?』
クラウスさんは衰弱死の危機だというのに、ものすごい明るく話してくる。
「は、はい。おかげさまで。ただ薬の副作用が強い状態で……」
すると電話の向こうで、気楽な声が、
『じゃ、やっぱり投薬を中止にしますか? 身体的負担はあるかもしれませんが、お互いでお互いの毒を中和出来るなら、ちょうどいいんじゃありません?』
「……? 待て、それはどういうことだ、カイナ」
耳をすませてたらしいスティーブンさんが、割って入る。
「い、いえそれは、その……あ!」
スマホを奪われ、スピーカー通話に変更された。
先生の声が響き渡る。
『薬はどうしても副作用が出てしまいます。類似した毒素の治療をしたことはありますが、パートナーとの性交渉が一番早く毒が抜けるみたいですね。いやあ、愛の力は偉大ですね』
「……ちょっと待て、カイナ。君は投薬治療の話しかしなかったじゃないか!」
副官さんの顔が、ちょっと剣呑な感じになってきた。
『あ、きっと女性の方だから、言いにくかったんですね、ミスタ・スターフェイズ。
ミス・シノミヤの毒素は投薬以外にも治療法があるんですよ』
スティーブンさんの声は、ルシアナ先生にもしっかり聞こえてたらしい。
「……それは、どういったものなんですか、先生」
よしてほしいのに、先生の明快な声が響き渡った。
『カイナさんの毒素は子宮近くにたまってるので、そこに男性の体液を百回くらい注げば、投薬なしの完全中和が可能です』