第6章 悪夢の後日談
「開けて下さい! クラウスさん! 私なら、どうなってもいいですから!!」
「止めろ、チビ! 旦那はおまえのために耐えてるんだぞ!」
「そうだよ、カイナ! ミスタークラウスがどんな気持ちで我慢してるか分からないの!?」
「クラウスさん、クラウスさん!!」
私は駄々っ子である。制止を振り切ってドアを叩いて、ひたすらに想い人の名を呼んだ。
そうしたら。
『カイナ……』
重い扉のすぐ向こうからクラウスさんの声がした。
とても苦しんでいるような、疲れ切って、何かをこらえているような。
「クラウスさん!!」
『心配しないで、くれたまえ……解毒剤が、出来るまで……』
「何日かかるか分からないんですよ!? それまで飲まず食わず眠らずで耐えられるわけないでしょう?」
『……君の身体にも毒素がある。私より、君の……身体の、方が……』
「なら……なら、せめて、その、別の女の人を……。私は、かまいませんから……!」
『断る』
苦しそうだったクラウスさんの声が、きっぱりした物になった。
『私の伴侶は君だけだ。他の女性に触れる気は無い』
「クラウスさん……」
『私は、君との約束を守る』
私は脱力し、扉の前にへたり込んだ。
「純情だねえ」
スティーブンさんは肩をすくめる。
「ともかく、カイナ。君は安全な場所にいてくれ。万が一クラウスの理性が振り切れたら、真っ先に君がヒドい目に遭う。そうなったら毒が強くなるんだろう?」
「あ、あの、その話なんですが……」
むしろヤッた方が早く治ります☆
い、言えねえ! 今さらこんな雰囲気の中で!!
「辛いのはミスタークラウスも同じだから。頑張ろう、カイナ」
チェインさん、私にお姉さんっぽく微笑んでくれた。
「私は坊ちゃまについております。この老木がどうこうされることは、さすがにありますまい。
お水だけでもお取りになっていただけるよう、説得をしてまいります」
沈痛な面持ちのギルベルトさん。
「事務所に行こうぜ、チビ。おまえに出来ることは何もねえ」
ザップさんは吐き捨てて言った。
い、いや、あるんだけど……でも、今さらどう言い出したものか……。
そのとき、スティーブンさんのスマートフォンが鳴った。