第6章 悪夢の後日談
曰く、クラウスさんは戦闘中に敵の毒を受け、性的欲求が極限まで高まっている状態だそうだ。
クラウスさんだから、どうにか自己を抑制しているものの、通常の人間なら老若男女どころか生物無生物構わず襲っておかしくないそうな。
スティーブンさんは難しい顔で腕組みし、
「新しい種類の毒だ。サンプルもさっき病院に回したばかり。成分を分析して解毒剤を作るには何日か必要だ」
「そんな……」
「だがいくらクラウスと言えど、二十四時間休み無く性的欲求に苛まれ、いつまで正気を保っていられるか、だな」
単に性欲に悩まされるだけの笑い話かと思いきや、事態は意外に深刻らしい。
なぜならクラウスさんの欲求が、性的欲求一点に集中し、それ以外を遠ざけているからだ。
眠ろうにも眠れない、何か取ろうにも身体が拒んで吐き出してしまうという。
今のクラウスさんは、食事も睡眠も取れない状態。
いかに規格外のクラウスさんだろうと人間だ。
「解毒剤が早くできればいいが、このまま性交を拒んでいれば、いずれは衰弱し……」
「じゃあ、なおさら私が……」
スティーブンさんはため息をついて言った。
「彼はかたくなに拒否をした。君との約束があると」
そんなことを言ってる場合じゃないでしょうに。
「クラウスさんに会うことは出来ますか!?」
「ダメだ。時間が経つほどに、クラウスの凶暴性は増す。
君を直接見るのも、声を聞かせるのも危険だ」
私は泣きそうな思いでスマートフォンを取り出した。
「……まだ文字は打てるでしょうか」
「そうだといいんだけどね」
私は皆の前で、必死にメッセージを打った。
けどクラウスさんの返事は遅い。
『決して来てはいけない』
『私は君との約束を守る』
『解毒剤が出来るまで、必ず耐えてみせるから』
『愛している』
「クラウスさん……!」
そんなことを言われて、こっちが耐えられない。
「カイナ!」
皆に呼び止められたけど、私は構わず走る。
クラウスさんの部屋に行き、ドアを開けようとした。
けど、固く閉ざされていた。
どんなときにも、私を拒んだことのなかった扉が。
「開けて下さい! クラウスさん!!」
「寄せ。声を聞かせるのは危険だ!」
スティーブンさんが肩をつかんだが、私は構わず扉を叩いた。