第6章 悪夢の後日談
「……そ、その、カイナ。どうしたのだね?」
私から謎の冷気を感じ取り、何か機嫌を損ねたかとビクッとするクラウスさん。
「いいえ、別に」
私は冷ややかに応えた。クラウスさんは冷や汗を流しつつ、
「もちろん、私は君に最大限の――」
「いえいえ。どうぞいってらして下さい。お帰りをお待ちしています」
微笑んで言うと、向こうもやっとホッとした顔になった。
出発の時間だ。
「それではいってくる。愛している」
「私もです」
身をかがめてキス。
「それでは、また夜に」
微笑むクラウスさん。
「失礼いたします、カイナ様」
頭を下げるギルベルトさん。
……ちなみにギルベルトさんは最初っからいる。
私とクラウスさんがキスをしていても、忠実に控えている。執事とはそういうものらしい。
当初、人前のキスとか抵抗ありまくりだった私も、いつの間にか慣れてしまった。
げに恐ろしきは、一流執事のステルス機能。
ともあれ、お二人は出かけていった。
「ふう……」
私はごろんとソファに横になり、伸びをする。
気分はずる休みをした学生。堂々と休めばいいのに、どこか罪悪感がある。
困ったもんだ。
「い、いやでもセックス百回は無いし……」
けど三ヶ月薬を飲み続けるのも、それはそれで大変だ。
「……むやみに怖がらないで、ちゃんと話し合えば良かったなあ。
そうだ。やっぱりちゃんと話し合おう」
昨晩は『指一本でも触れたら婚約解消!』と鼻息荒くしてたが、時間が経つと冷静になってしまう。
生涯を共に、と言ってくれた人なのだ。嘘はつきたくない。隠し事は作りたくない。
クラウスさんなら、ちゃんと謝れば許してくれるだろうし。
……というか人のハメ撮り動画で抜く背中は、金輪際見たくないっ!!
「その上で、クラウスさんも満足出来て、私も負担が少ない回数を決めればいいんだ」
そうすれば三ヶ月よりもっと早く復帰出来る。私も薬を飲まずにすみ、副作用に悩まず、事務作業をお手伝い出来る。
そうだ、そうしよう。
謝ってちゃんと話す、と決めたら一気に楽になった。
目を閉じる。
薬の副作用で、睡眠はすぐにやってきた。