第6章 悪夢の後日談
部屋の明かりは消えている。クラウスさんはデスクに座り、こちらに背を向けパソコン作業をされていた。
ホッとすると同時に嬉しくなった。
さすがはクラウスさん。こんな夜中までお仕事だなんて。
でもずいぶんと熱心に作業をされてるんだな。私の気配に気づかないなんて珍しい。
あと部屋の明かりを消すのは目に悪いですよ。
クラウスさん、と大きな背中に声をかけようとして。
私はフリーズした。声が聞こえたのだ。
『……ゃ、だ、くらう、す、さ……! 縄、ほどいて……!』
え。この声って。
そして気づく。クラウスさんの右手は、マウスもキーボードも『操作してない』ことに。
私はもう少し、部屋の中に踏み入る。
クラウスさんは未だ私の気配に気づかない。
それほど、パソコン画面に集中していた。
その大画面には、どこぞの小娘の痴態が映っていた。
半泣きの哀願の声が聞こえる。
『クラウス、さ……だめ、撮っちゃや、だ! 恥ずかしい……!
や、止めて……やぁ……! い、痛い……あ、足、そんなに、開かせ、ないで……。
恥ずかしい、とこ、撮らない、で。お、お願い、ですから……!!』
私は後じさり、そーっと扉を閉めた。
そして全力の早歩きで部屋に戻る。
部屋につき、バタンと扉を閉めベッドにズカズカ近づき。
「あの変態がぁっ!!」
枕をわしづかみ、壁にぶつけ、怒鳴った。
あの変態クマ男! 必ず全部消去するって私に約束したくせにっ!!
もう同情は一片たりとも湧かない!
三ヶ月の間に指一本でも触れてきたら、今度こそ婚約解消する! 絶対する!!
私はボフッとベッドに頭を乗っけ、今度こそ安らかなる眠りについた。
…………
翌朝、婚約者は言った。
「カイナ。君の体調が安定するまで、しばらく自宅療養していてくれたまえ。
これはライブラ統括責任者からの要請である」
大真面目な顔で言われたら、反論は出来ない。
「……はい。クラウスさん」
じくじたる思いで、ネクタイを締めるクラウスさんに応えた。
「体調が整ってきたら、また事務作業のアシストを頼みたい。
君の復帰を、心待ちにしているよ」
そのお顔はキリッと、あまりにもまぶしい。
……昨晩、私の強制ハメ撮り動画で抜いてた方とは思えないなぁ。