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【血界戦線】紳士と紅茶を

第1章 出逢い


 教会のすぐ前で、車が停車した音がした。
 バタンとドアが開く音がして、入り口側のガレキを軽々と超え、誰かが来る。
 確実に私のいる方向にやってくる。
 私は緩慢に目を開けた。
 どこの火事場泥棒だろうか。
 それとも『組織』の増援が、私だけでも『回収』しようと言うんだろうか。

 まあどうでもいいか。
 こんな小娘、見つけた人が好きにすればいいと空を見上げていたら。

 視界にヌッと巨大な人影が割って入った。

「大丈夫かねっ!?」

「わっ!!」

 ものすごく大きな手に肩をつかまれ、揺さぶられた。
「は!? え!?」
 驚いたのは、目の前の人があまりにも凄まじい形相だったからだ。
 最初、クマを連想した。異界の人かと思い、マジで食われるのかと身構えてしまった。
「しっかりしたまえ! 自分の名前が言えるか!? 苦痛のある箇所は!?」
 よく見ると一応、人間だ。
 鬼気迫る表情で言われ、つい応えてしまった。
「は、はい。名前はカイナ・シノミヤ……です。痛いとこは、別に何も……」
「立つことは出来るか?」
「はい」
 大きな手に手をすっぽり包まれ、ゆっくり立ち上がる。
 あ。立つとき背中を支えてくれた。
「立ったときに痛みは。五感や平衡感覚に変化は?」
 何か専門的だ。
「いえ別に何も……どうもすみません」
 ようやく、この人が『私を心配して来てくれた』という理解が頭に届き、礼を言う。
『良い人』はこの街で最も警戒すべきものだが。
「だが見えないところに異常がある可能性もある。念のために病院で検査をした方がいい。ギルベルト――」
 誰かに何かを呼びかけようとしているのを見て、慌てた。
 そんな余計なことをされたら、金が――コホン、私の『能力』がバレるかもしれない。
 大半の人にはどうでもいい能力だけど、一部の人には使用価値がある。それだけに厄介なのだ。
 まあその説明も後でね!

「ご心配なく! ありがとうございました。さっき婚約者から連絡が来まして!」
「婚約者?」
「さいです! これから婚約者が男友達の方々を連れて来てくれるそうなので、もう大丈夫です!」
 男の存在をちらつかせ、暗に牽制(けんせい)する。女性の防犯の基本であろう。
 するとクマみたいな赤毛さんも、ようやくホッとしたようだ。
「そうですか。これからの宛てがあると」
「もちろんです!」
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