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【血界戦線】紳士と紅茶を

第6章 悪夢の後日談



 起きたとき、私は私の部屋のベッドにいた。窓の外は夜だ。
 薬の副作用が効き過ぎだ。一回、病院に行って、もっと軽い薬はないか聞いてこないと。

「カイナ」

 ベッドの横で声が聞こえた。
「クラウスさん……」
「すまない。本当に、すまない……」
 椅子に座り私の手を握りしめ、うなだれるクラウスさん。
 さながら、私が余命宣告をされたかのようなテンションだ。

「私が愚かだった。己の邪心に屈したがために、君の病を悪化させるなど……!!」

 …………あ。
 
 思い出した。

 私、薬の副作用のこと、クラウスさんに言ってなかった!

 だからクラウスさん、私が眠いのが『毒素による不調』と思い込んでるのだ。

 本当のことを言ってあげた方がいいかなあ。
「あのですね、クラウスさん、これは――」

「カイナ。どうか許してくれたまえ。私は君を道具と思ったことは断じてない!!
 だから! 決して! 君の病が癒えるまで指一本触れないとここに誓おう!
 もし誓いを破ったら……私は、私は君との婚約を取り下げるっ!!」

 ……普通、脅しに使う文句でしょ、それ。
 でもクラウスさんにとっては、死に等しい宣言らしい。ものっすごい悲痛な顔をされている。

「ホントに夜寝かせてくれますか?」
「むろんだ!」

「ちゃんとご自分の部屋で寝て下さいますか?」
「もちろんだとも! 君は私室で安心して寝てくれたまえ!」

 ……ちょっと面白いかも。

 …………

 …………

 その後、スティーブンさんにも電話で報告して謝った。

『いいよいいよ。君には早く前線に復帰してほしいから、身体の回復を優先してくれ。
 今の君の仕事は婚約者の心身を支え、彼のコンディションを万全に保つことだ』

 要約しよう。『戦えないならクラウスの機嫌取ってろ』。

 そこまで事務では使えませんでしたか、私。しくしく。

 でもまあ色々とアレな方だが、私はクラウスさんを尊敬している。
 いつだって、私より世界の均衡を優先してほしいと思っている。

 ……というわけで、回数を減らせる絶好の機会。
 距離を取ることを覚えていただこう。


「カイナ! 触れあえない我々の隙間を埋めるため、君への想いを手紙にしたためてみた。良ければ朗読させてくれたまえ」

「…………」

 新しい地獄が始まった。

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