第6章 悪夢の後日談
…………
「…………」
窓から朝の光が差し込んでいる。
「……おはよう。カイナ」
オドオドと、クラウスさんが言う。
だがあいさつを返す前に、
「何でクラウスさん、私の隣で寝てるんです」
「ち、違うのだ。私はただ、寝る前にもう一度、君の寝顔を見ようと」
あたふたと言い訳。それで朝までここに?
「怒っているだろうか? カイナ」
私の反応をうかがいつつ、びくびくと聞いてくる。
ダメと言われたのに、ベッドに入ってしまった大型犬。
自分が罪を犯したことを自覚しており、『きゅーん』と上目遣いに赦しを請うているような。
怒りにくいなあ。
ちなみに添い寝したはずのぬいぐるみは、丁寧に排除されていた。
下着とパジャマのズボンをかけた椅子の上に、ちょこんとお座りしている。
私は起き上がり、深々とため息。寂しがられてちょっと嬉しい思いはある。
「いえ、別に……」
言いかけ、ピタリと止まる。
『下着とパジャマのズボンをかけた椅子』……?
そう言えば起き上がったとき、下半身がすーすーしたような。
ふと視線を下に転じ……。
「怒ってないわけがあるかぁーっ!!」
かくて怒声が響き渡った。
…………
…………
朝食時、私は暗黒オーラを漂わせながら無言であった。
私たちの関係に関して、私たち以上に把握してる執事さんは、だいたい予測がついたらしい。
「お坊ちゃま。紅茶のおかわりは」
給仕をしながら、やや冷たい声。
「……す、すまない」
三男坊は、子供に戻ったみたいに、執事の無言の非難に顔色を悪くさせる。
「何のことでしょうか。紅茶のおかわりの話にございます。
私めは、お坊ちゃまに謝罪いただくことは何一つございません」
「……そうだな。その、すまなかった、カイナ」
「いえ、怒ってませんよ、クラウスさん」
私はキラキラと笑顔。クラウスさんは瞬時に顔を明るくし、
「カイナ。君の寛大さには本当に――」
「クラウスさんが、私の回復のことはどうでもいいと、よーく分かりましたから」
バキッ。
私の手の中でハシがへし折れる。
ギルベルトさんが速やかに代わりのハシを持って来てくれる間、私は凍りついたクラウスさんに微笑み続けた。