第2章 告白(上)
「いえいえ冗句じゃありませんって。ぼっちの時は誰に回収されるか分かったもんじゃないから、怖くてそんな真似は出来ませんでしたが、今なら私もお役に――」
言い終える前に口を塞がれた。ふがふが。
「カイナ。そういう恐ろしいことを考えないでくれたまえ。君が誰かの命令を受け爆弾を巻いて敵地に向かうなど……」
あ。クラウスさん、顔が真っ青になり胃が痛そうな顔をしている。
頭がいいだけに瞬時に想像してしまったらしい。
「大丈夫ですよ。生き返るし」
リセットボタンを押せば大丈夫っ!
「自分の命をそんな風に軽々しく考えてはいけない」
「実際軽いし、それに生き返ってますよ?」
「…………」
すると紳士は沈黙し、ものすごく難しい顔をした。
頭の中の膨大なデータを検索し、私を悔い改めさせる最適な文言を探そうとしてるがごとく。すると。
「君、クラウスがそこまでのピンチになると思うかい?」
ん?
第三者の声がした。見ると、いつの間に入ってきたんだろう。
いつぞやの夜に出会った、顔に傷あるスーツの男性がいた。
クラウスさんは別に驚いた様子もなかった。
ギルベルトさんは音も無く珈琲とサンドイッチの皿を追加するなど、隙が無い。
「この前の夜の怪物を覚えているだろう? 仮にクラウスが苦戦したとして、それはあのイカより、もっともっとすごい怪物だよ?」
考える。この間の夜、怪物イカが暴れたとき、私がアホな真似をして殿方たちの足を引っ張ってしまった。
けどもしそれが無ければ、クラウスさんは怪物イカ相手に楽勝だっただろう。
「それに爆弾は、とても重いんだよ? 君は運べるのかい? それも歩くんじゃなくて走って」
……あのイカを倒す爆弾なんて、何トンくらいいるだろう。
持てない、走るなんて無理無理無理!
なるほど。クラウスさんのピンチを私一人の命で救おうという発想自体が、未熟そのものであったのだ。
「先ほどのわたくしの発言に不適当なものがございました。謹んでお詫び、撤回させていただきます」
頭を下げて重々しく言う。
あ、クラウスさんが超ホッとしてる。
スカーフェイスの男性……えーと、スティーブンさんに目だけで礼を言ってる。
スティーブンさんは『いいよ』と片目をつぶって応答。
……う。大人たちに上手いこと諭(さと)されたガキの屈辱感!