第6章 悪夢の後日談
「うぐっ!!」
「ど、どうしたのだね、カイナ! 毒素の影響か!?」
「い、いえ、何も! 大丈夫です!」
罪悪感にお腹を押さえつつ笑顔を作る。
だがいくら罪悪感に苛まれようと、真実を伝えるわけにはいかぬっ!!
私の安眠のためにっ!!
あ。それと治療が終わるまでセックス禁止って言っとかないと。
「クラウスさん。ちょっとよろしいですか? 後でお話がございます」
…………
そして別室でクラウスさんと二人きりになり、やっと夜のプライベートに関する話が出来た。
「そういうわけで、投薬が終了するまで、夜のアレはお預けということで」
「……何ということだ」
クラウスさんは痛ましげに顔に手を当て、そして私を抱きしめた。
私が毒素を受けたときより、ショックを受けてないか、この人。
だがだまされてはいけない。彼の悲嘆の理由の大部分は『私とヤレない』ことなのだから。
「いや、たった三ヶ月ですから」
「そうだな。私は君と手をつなぎ触れあうだけでも十分に満足だ」
慰めを得たかのように、私の頬を撫でるが、
「いえ、寝室も別にさして下さい」
「何!?」
……何をガクゼンとした顔をしてやがる。
でもこれはデタラメではなく、ルシアナ先生に言われたことでもある。
「言ったでしょう。『気』を整えるって。三ヶ月なんてあっという間ですから、その間だけ、お互いぐっすり寝ましょう。ね?」
しかし婚約者は見るからに焦りだした。
「だ、だが、我々は婚姻関係にあり、寝室を違えるのは大変に不自然な……」
「今は私の身体が『不自然』な状況なんです。三ヶ月、ご辛抱を」
「カイナ……!」
抱きしめられた。
相手はガタイのいい長身なので、たちまち私の足が宙に浮き上がる。
「愛している……」
その不治の病を宣告されたような悲壮な声は何なんだ。
でも私のことを心の底から案じ、苦しみを分かち合おうとしてくれる気持ちは痛いほど伝わった。
「クラウスさん……」
だがデカい手が、意味ありげに私の背をなで下ろし、
「そ、その……治療に入る前に、一度だけ、いいだろうか?」
「良いわけがあるかぁっ!!」
私の怒声がライブラの事務所に響いたのであった……。