第5章 終局
この街では、明日にも私は鬼籍に入っておかしくない。
でも私の不安を読んだかのように、クラウスさんが私の顔を上げさせ――キスをした。
慌てて窓の方を見るけど、皆、どんちゃん騒ぎに戻ってるみたい。
スティーブンさんか、ギルベルトさんが人払いをしてくれてるのかもしれない。
クラウスさんは私の両肩に手を置き、まっすぐに私の目を見た。
「不確実だからこそ、私たちは前に進むのだ。
互いの存在を支えとし、私は君と共に歩いて行きたい。
君といつでも紅茶を一緒に飲みたい。生涯、共に」
「…………」
強い言葉に涙がこみあげる。
例え互いの命が明日までの期限付きだったとしても、クラウスさんには一切関係ない。
今一緒にいたいから、一緒にいる。
明日も一緒にいたいから、約束をする。
ずっと一緒にいたいから、誓いを交わす。
心の中で押さえつけてきた願望を自覚する。
私は……ずっとクラウスさんと一緒にいたい!
植物を一緒に育てて、読書を楽しんで、時には背中を預けて戦って。
ずっとずっと、この紳士と紅茶を楽しんでいたい。
涙をぬぐい、顔を上げた。
「お受けします。ミスタ・クラウス・V・ラインヘルツ。喜んで!」
「……ありがとう、カイナ!」
久しぶりにクラウスさんの満面の笑み(怖い)を見た。
そして私たちは互いを抱きしめ、長いキスを交わした。
…………
そしてすぐクラウスさんの話題が切り替わる。
「では挙式はいつに。君の希望を聞きたい」
「いつでも。何なら明日にでも」
私は照れながら笑う。
「そうか、では明日行おう!」
……は?
「ギルベルト!」
「はっ」
スッと風のようにギルベルトさんが現れる。
「式場、聖職者、料理、お召し物の手配はすでに済ませております。
招待客についてはライブラの皆様に限られますので、今パーティーに出席されている皆様を、明朝、そのまま連行いたしましょう」
テキパキと執事さん。
「今、連行って言った!?」
二日酔いどもに祝われる結婚式とか!!
しかし、この手際の周到さから言って、前々から準備してたのだろう。
希望の日程を聞いときながら、実は応じる気ゼロ!?