第5章 終局
「ご家族にあいさつをされ、お屋敷とか、昔クラウスさんが使ってた部屋とかを案内され。
挙げ句に晩餐会まで催され、ご兄姉からクラウスさんの幼少期の爆笑エピソードを披露され……弟をよろしくと……」
残念ながら、血を吐きそうな緊張で詳細は覚えていない。
「ここまでされると、逃げられない感あるじゃないですか」
『うんうんうん!』とその場の全員が首をぶんぶん縦に振った。
ちなみにパーティーの前に家に寄って、バラ園を見てきた。
……以前に私に逃げられたトラウマか、転移防止の妨害術式が三重四重五重にかけられておった。
「だからなおのこと、改めてそんなことしなくていいかなーって」
「カイナっち……結婚するなら『結婚式』が出来るわよ?」
「!!」
う。今、一瞬揺れ動きそうになった。
「どうせ費用は全額、クラッちが出してくれるんでしょう?
いいじゃない。着ちゃいなさいよ、ウェディングドレス」
「飲み会とか日取りがあるから、事前に日程を教えてくれないと困るんだけど」
スマホを取り出しながら言うチェインさん。
「いやその前に招待状でしょうが! あ、いや、そうじゃなくて!」
「あら! やっぱりカイナっちもしたいんじゃない! ほらほら、挙式はいつにしたいの!?」
ヤバい。はやし立てる雰囲気になってきてる!
「カイナっちが恥ずかしがって聞けないなら、私が聞いてあげる! クラウスー!!」
「うわあああ! 止めろぉー!!」
わたくしの絶叫が響き渡る。
「ん? どうしたのだね、K・K、カイナ」
クラウスさんがこちらを向く。K・Kさんは喜色満面で、
「あのね! カイナっちがねー!!」
わたくし、懐から呪符を取り出した。
「第一符!!『クラウスさん136号』っ!!」
巨大なアラスカヒグマの出現により、会場はパニックになったのであった……。
…………
…………
しくしくしく。
クラウスさんに襟首つかまれ、バルコニーにつまみ出されながら、私は両手でお顔を押さえていた。
そして後ろ手に窓を閉めると、クラウスさんは私を両腕で抱っこしなおした。
「カイナ。余興だろうと少しやりすぎだ」
「あい」
私はクラウスさんの肩にしがみつき、しくしく泣いたのであった。