第5章 終局
あれこれ言われるまえに、とりあえず言っておいた。
「ぶっちゃけ結婚とかって、面倒くさいってか」
「こ・れ・だ・か・ら・最近の若い子は!!」
K・Kさん、お怒りである。あなたもちゃんとお若いと思うのですが。
「結婚はいいわよ~。まあうちの旦那には叶わないけど、クラッちも男の中の男じゃない。
なのに一体何がどう不満で――!」
「い、いや、そういう話じゃなくて」
どうどうと、お怒りなのかノロケモードなのか分からん主婦をなだめた。
「別にわざわざ結婚したって何か変わるわけじゃないし、今のままの方が気楽かなーって」
ヘルサレムズ・ロットなんて無法地帯で、わざわざ届け出を出して、法的に結婚するメリットはほぼゼロだ。
私は三年前の時点で、クラウスさんと半ば一緒に暮らしてるようなものだったし『改まってやらなくとも』感はぬぐえない。
「分かる分かる。気が向いたときだけ一緒に住んで、飽きたら別れてとか、いいよな。後腐れなくて」
ヒモに共感されたくないわ。
あとクラウスさんと、そこまで刹那的な関係になる予定もないし!
「じゃ、じゃあクラッちと一緒になること自体は、もう決めてるのね!?」
どうにかロマンスを見いだし、目をキラキラさせる主婦。
「いや決めるも何も。こっちの意思以前にもう、逃れられない何かを感じて……」
ボソッと呟くと、周囲がざわっとする。どうも相当に陰鬱な顔をしていたらしい。
「な、何かされたのか? チビ。旦那に」
ちょっと引きながらザップさん。
「こっちに戻って私関係の書類を確認しようとしたら、名前が……皆……『カイナ・フォン・ラインヘルツ』になってて……」
シーン。会場が静まりかえる。
クラウスさんとスティーブンさんは気づいた様子も無く、向こうで普通に会話を続けてらっしゃる。
「引くわ……それ超引くわ……」
レオナルドさんがガタガタと震えている。
「先生の使いで、たまたま私一人でクラウスさんの国に行ったときなんてですね!
一切連絡をしてなかったのに、空港にラインヘルツ家からの、迎えのリムジンが来てたんですよ!?
そのままクラウスさんのご実家のお屋敷に連行されて……連行されて……」
『ぐふっ』と、胃を抑えると、『カイナっち、怖かったわね!』とK・Kさんが涙ながらに私を抱きしめた。