第5章 終局
なので私は微笑む。
「いえいえ。そこらへんの昔の体感記憶は、三年前に永久削除したの覚えてませんよ。
麻酔無しの生体解剖も生きたまま挽肉にされたのも、若気の至りで宇宙を消滅させかけたのも、今となっては良い思い出ですね」
「何一つ良い思い出に出来ねえことばっかだし、とんでもないことを『若気の至り』で済まそうとしてるよこの人!! しかも三年前って、言うほど昔じゃねえし!!」
怒濤(どとう)のごときツッコミのレオナルドさん。貴重な人材である。
「はあ? この街じゃ、毎日が世界の危機なんだぜ?
目の前に座ってる奴が世界を滅ぼしかけたとか、よくある話だろ?」
何本目かの酒瓶をあおりながら、ザップさん。
「ねえよ!! 一生に一度もあるかないかだよ!!」
レオナルドさん、両手を振って抗議されていた。
ちなみに、三年前の経緯――私は完全なる被害者ではなく、どっちかというと黒幕寄りだったらしいという真相――は、ライブラの中でもトップレベルの機密情報のはずだったが、何か皆知ってた。
といっても迫害されたり、ということはチリほどもなく、
『クラウスの後ろでビビってるガキかと思ったら、やるじゃねえか! 完全に騙されたぜ、ガハハハハ!!』
と、武器商人パトリックさんの反応に代表されるように、概ね好意的なものだった。
あな恐ろしや、ヘルサレムズ・ロット。
「ま、そういうわけで色んな国に行って、実践魔術の知識を得られたわけです。
プラハでゴーレム、ロンドンで錬金術、中東で占星術、中国で符術、日本でAI」
「日本でだけ何があった!?」
「まあまあ、そんなお堅い話はもういいじゃない」
K・Kさんが手を振って話題を変える。
そして騒がしいパーティー会場に響き渡る声で、
「で、クラッちとの仲はどうなの!? いつ挙式なの!?」
……私の隣に座った理由はそれか。ワイドショー好きの主婦め。
しかしレオナルドさんたちはちょっと身を乗り出し、チェインさんがさりげなーく、私に近い場所を取る。
会場のおしゃべりも、ほんの少しだけ静まったような。
い、いや、気のせい。気のせいだ絶対!!
私はチラッとクラウスさんをうかがう。
向こうでスティーブンさんとお堅い話をしてるみたいだ。
こっちの小声話は聞こえないだろう。
……多分。