第5章 終局
私はクラウスさんに手を引っ張られ、通りに止まった高級車へ。
「カイナさん、お久しぶりです」
「あ、ギルベルトさん、ご無沙汰しています!」
運転席の執事さんと大喜びで握手する。
クラウスさんにドアを開けていただき、座席に乗るとギルベルトさんは、
「先ほどの戦い、実にお見事でした。胸が打ち震えましたな」
「ありがとうございます。ギルベルトさんもお元気そうで何よりです!
以前にお遭いしたのは、いつでしたっけ?」
クラウスさんはドアを閉め、私の隣に座りながら、
「八ヶ月前だ。覚えていないかね? 私たちが×××国に立ち寄ったとき――」
「坊ちゃま!」
車を発進させようとしていたギルベルトさんが急停止した。
どうしたんだろう。ん? ×××国?
「そうでしたね。ちょうど私、その国で勉強していたんです。でもそこはゴーレム禁止っていうすごく厳しいとこで。
そんなとき、交渉関係で世界中を回ってらしたクラウスさんが、こちらに寄るご予定って知って嬉しくて……」
そうだ。思い出してきた。二時間しか時間が取れないけど、一緒に食事でもと言われた。
『二時間? もしかして、もしかする?』と、私は期待半分。
精一杯のオシャレをして、一番可愛い服を着て、ちょっとエッチな下着まで着て、ウキウキしながらクラウスさんが待つホテルに向かって――。
思考がピタッと止まる。
……何だろう。その先は思い出しちゃいけない気がする。
「カイナ。何か食べたいものはあるかね!? 何でも好きに頼んでくれて構わない! こ、こっちの食べ物も懐かしいだろう! ギルベルト!!」
ギルベルトさんもまだ車を出さず、大急ぎで地図を起動させてる。
「そう。確かあのとき、ホテルでクラウスさんに会って――」
「カイナさん、スシなどいかがでしょう! この近くのスシ店はヘルサレムズ・ロット最新観光ガイドに載ったほどの――」
「それともバーガーショップに行くかね? 最近、レオナルド君たちがよく行っている店は――」
……ライブラには『極限の二週間』という言葉がある。
こういった組織につきものの大量の交渉ごとを、クラウスさんはたった二週間でやっていた。
プライベートジェットに乗り、世界中を回っていたのだ。
その強行軍の十四日中、十二日目に私に再会した。