第1章 出逢い
「で、では本当にありがとうございました。そろそろお帰りになって休んで下さい。ミスタ・ラインヘルツ」
今さらだけどクラウスさんは激戦の後だ。
とても時間を使わせてしまった。
「そうだな。ギルベルトを呼ぼう。ミス・カイナ。あなたにはホテルを取ります。
しばらくそこに滞在されるといい」
「え?」
「費用が気になるのでしたら、一時的に私が貸すという形で受け入れてほしい。
いずれ生活が落ち着けばちゃんとした――」
「いえ、私、ここにいますよ。迷惑がとか、そういう話じゃなくて」
この場所から離れたくない。いつ『組織』の奴らが来るか分からないし。いなかったら怒られる。
「…………」
ギルベルトさんにスマホで連絡を入れてから、クラウスさんがまじまじと私を見る。
「ミス・カイナ。もう、ここは何もないと思うのだが」
巨大イカが暴れまくって、残ってた聖堂は完璧に破壊された。
「地下部分もちょっとあるし、テントを張ればどうにか」
「それは到底受け入れられない。カイナ。あなたを外で寝かせたくはない」
「私はここを離れたくないんです」
「婚約者も教会のメンバーも架空の存在であるのなら、何が君をここに縛りつけている。どうか話してほしい、カイナ」
……何か、だんだん口調変わってないか、クラウスさん。
ミス・シノミヤから一気に名前呼び捨てになってるし。
「クラウスさん、あなたには関係ないでしょう!
とにかく私、ここにいますから!!」
「カイナ……」
ちょっと困った顔のクラウスさん。首をしばしひねり、
「なら君に与えた聖書を返し――」
「嫌です! もらったものは私の物っ!!」
ギュッと聖書を抱きしめるとクラウスさんがフッと笑う声がした。
…………
「坊ちゃま、ミス・シノミヤ。お待たせし――」
ギルベルトさんが(元)教会前についたとき。
「いいから、こっちに下りてきたまえ、カイナ」
「だから迷惑だって言ってんでしょ!! とっとと帰って下さいよ、ゴルアァァー!!」
どうにか私を連れて行こうとするクラウスさんと、一生懸命手で押して抵抗する淑女を見たのであった。
「仲直りされたようで何よりです」
執事さんは笑って紅茶をいれる準備を始めたのだった。