• テキストサイズ

【血界戦線】紳士と紅茶を

第1章 出逢い



「全部、嘘ですから。婚約者とか教会とか雑用とか、何もかも全部……見ず知らずのあなたに、迷惑をかけたくないって……」

 言い訳みたいに呟く。

「私は私の信念に従って生きている。それをあなたが先回りして、迷惑と思う必要はない」

「……っ!!」

 思わず顔を上げる。クラウスさんの目はまっすぐだった。
 何で気づかなかったのだろう。この人は強い人だ。
 私を助けることで面倒ごとがとか、言われるまでもなく全部承知で関わってきていた。

「許していただけるのなら、また、あなたとお話がしたい。
 あなたがその本を最後まで守ろうとしてくれたように、私にとっても、あなたとの時間は大切な物だから」

 あー、何かもう無理。誰かに大切とか言われるとか……もうホント無理。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 大きな胸にすがって泣きじゃくっていた。
 抱きしめられ、すっぽりと包まれる。強く強く抱きしめられる。暖かい。もう何も見えない。

「……スターフェイズさん、イカも倒したし、俺、もう帰っていいっすか?」
「あー、そうだな。俺たち邪魔になってるみたいだし。おい、クラウス。先に戻ってるぞ。おーい?」

 ボソボソ言ってるのが聞こえたけど、泣くのに忙しくて何も聞こえない。
 
 霧の向こうからやってくる朝の光が、私たちをやわらかく包み込んだ。



 そして気が済むまで泣いて、ハンカチで赤くなった目元を拭いてもらった。
 クラウスさんは聖書を手に取り、ホコリをはらう。
「ミス・カイナ。あなたに読み書きを教えさせてほしい。
 もちろん、迷惑だとか勝手にもう遠慮をせずに」
「え。いや、普通に勉強はちょっと……」
 照れくささもあって、後じさり。
「聖書は世界中で読まれているもので、簡潔にして平易。
 同時に全ての文学の根源でもある。テキストには最適でしょう」
 いや。何か、嫌。今までみたいに何もせず、ボーッと一日を過ごしたい!
 せっかくクラウスさんに近づけた気がしたのに、何で勉強がどうこうという話に!?

「ど、どうも、ありがとうございます……」

 しかし、あれだけ迷惑をかけた後では断れない雰囲気で、私はおずおずとうなずいた。
 クラウスさんの嬉しそうな顔に、ちょっとだけ顔を赤くして。
/ 498ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp