第5章 終局
■Sideカイナ(完)
ヘルサレムズ・ロットは今日も曇天だ。
霧のキノコ雲の下、ビル群を眺めながら私は呟く。
「ヘルサレムズ・ロットも変な気候が追加されましたね。
まさか空から男の子が降ってくるなんて」
「違う違う違う!! 世界崩壊危機レベルの脅威存在との戦闘中にあれがどうしてこうなって、上空500メートルのとこに瞬間移動しただけだから!! あと『男の子』じゃねえし!」
と、私の後ろで、少年は猛烈な勢いでまくし立てたのであった。
「もうホントに死ぬかと思った!! 走馬灯見たのは十五回目ですよ!!」
なかなか、にぎやかな少年だ。といっても歳はあまり変わらないっぽいけど。
「136号、そこをまっすぐ650m――それから17度北北西へ」
スマホの地図アプリを見ながら音声で指示を入力。
私たちを乗せたクマは指示通りに進んだ。
滑空する異界生物を避け、地上から撃たれた砲弾を水バリアで跳ね返し、ギガ・ギガフトマシフ伯爵の横を通過。
のんびりと、ヘルサレムズ・ロット上空を飛行する。
落ち着いたのか、彼は口を開いた。
「それにしても、こんな形で会うなんて驚きました。カイナ・シノミヤさん。
あと、助けていただいてありがとうございます」
「あ、ご存じだったんですか?『神々の義眼』保有者、レオナルド・ウォッチさん」
ちょっと振り返り、糸目の少年と軽く握手をした。
「クラウスさんに写真を見せてもらったことがあるんで。クラウスさんの婚約者さんですよね?」
「ん。まあ」
改めて言われると恥ずかしいなあ。
私は数年間海外にいて、この度ライブラに正式赴任ということになりヘルサレムズ・ロットに戻ってきた。
『136号』というクマ型ゴーレムに乗って上空から、ライブラに向かっていたのだ。
そしたら空からレオナルドさんが落っこちてきたわけだ。
「クラウスさんに婚約者がいるって、初めて聞いたときは驚きましたよ。
しかも知らなかったのは僕とツェッドさんだけだって言うし」
ツェッドさんというのは、私がヘルサレムズ・ロットを出てからライブラに入ったメンバーらしい。
「ご自分からプライベートを話す方じゃないですからね」
毎晩のようにネット電話して、頻繁にメッセージ交換もしてたんだけどなあ。