第5章 終局
今は完全に壊滅したが、かつて三流魔導組織『メビウスの輪』があった。
彼らは神性存在との契約をもくろんだ。
並行世界一つを生け贄に、強大な力を手に入れようとしたのだ。
そんな無謀で冒涜的な試み、当然失敗した――と思われていた。
だが実際は成功していた。
宇宙を滅ぼす規模の神性存在は、もはや『存在』ではなく概念、現象と呼ばれるべきものだ。
億年単位で動く存在に、我々が理解出来る範囲での意志などありえない。
だが逆に言えば、兆分の一のタイミングさえつかめば、契約自体は成功して当然だったのだろう。
あれは、そういう『現象』なのだから。
ただし報酬は魔導組織の連中ではなく、彼ら媒体として呼び出した少女に与えられた。
それがカイナだ。
君が言ったとおり、あの子が自ら故郷の記憶を消したのは『もう帰れる見込みがない』からではない。
帰るべき世界が、すでに消滅していたからだ。
そう考えればあの子が抱えた、途方もない怨念の説明がつく。
魔導組織のみに向かうはずだった憎悪が、この世界全体に範囲を広げた理由が。
契約は成功し、カイナは莫大な力を受け取った。
だが当人はそれをひた隠しにした。
一方、組織の連中は、まだ彼女の『不死』の意味に気づいていなかった。
契約のついでに手に入れた幸運なのだろうと、凡庸な解釈で済ませ、後は過酷な実験を彼女に課した。
彼女は便利な実験台として扱われながら、ひたすらに復讐の作戦を練っていたのだろう。
自分の故郷を滅ぼした神を、この世界に呼び滅ぼしてもらおうと。
目には目を、どころじゃない。宇宙には宇宙を、だぜ?
全く、若い子の考えることは実に豪快だ。
だが神性存在から得た力と、彼女自身の潜在能力がそれを可能にしてしまった。
自分の『死』と召喚門の鍵を複雑に組み合わせた。途中で自我が崩壊するか、気づいた誰かに永久封印されそうになったら?
中途半端でも門を開放し、せめてこの星だけは消滅するように仕組んだ。
組織の連中の記憶も巧妙に操作し、全ての仕込みを終えた後は、自らボロを出さないよう記憶を薄めた。
無力な実験台、被害者を装った。
記憶障害の語り手が真犯人。
今時どこの出版社も出しそうにない、陳腐なプロットだと思わないか?
なあクラウス。