第5章 終局
■Sideライブラ(完)
クラウスへ
正直言って、僕はうんざりしている。
ここ最近の君にも、君の何か言いたげな視線にもな。
だから、僕は君が言いたいだろうことへの返答を、この文書にしたためた。
君が事務所でPCを立ち上げた時に、この文書ファイルを自動的に起動させるようにした。
最重要機密も入っているから、君が最後の行までスクロールしたら自動消去するようにしておいた。
心して読んでくれ。
それと、読んでいる最中に連絡する真似も控えてくれ。
こっちは久しぶりの休日で、内輪のパーティーの準備中なんだ。
では答え合わせの時間だ。
まずカイナ・シノミヤが君の前から姿を消した理由についてだ。
君は悲嘆にくれているが、別に君との婚約が不満だったわけではないだろう。
ではなぜ彼女は姿を消したか。
それには、あの件について言及しないわけにはいかない。
もちろん例の件だ。
彼女が超上位神性存在を召喚する、生きた召喚門――すなわちその時点で最も発動可能性の高い世界崩壊幇助器具となった件だ。
事が表沙汰になったとき、すでに事態は進行していた。
だから『封印する』『しない』レベルの議論しか起こらなかった。
だが君は薄々気づいていただろう?
僕はどうかって? あいにくと、こちらは君ほど頭脳明晰でも、彼女のことばかり考えて過ごせるわけでもない。
だから、その可能性に思い至ったのは後になってからだ。
しかし凡ミスでもある。
魔導組織の連中の証言とデータ、彼女の証言、その結果起こった事には、食い違いや矛盾点も多かったのに、僕はそれについて深く考えなかった。
『三流魔導組織だから』という先入観を利用されたのかもしれない。
実際には多くの証言が歪められ、偽情報を流されていた。
とはいえ真実は、僕らの当初の予測と大きくかけ離れたものではないだろう。
今までの推測に事実を一つ、つけ加えるだけだ。
この事件には黒幕が一人いると。
クラウスや僕を含め、この世界の人間全てに強烈な憎悪と復讐心を抱く者。
この世界の全存在の消滅を誓い、そのためには自分がどうなろうと構わないという、厳然たる殺意の持ち主。
それは誰だ?
そう。
対象者は一人しかいない――カイナ・シノミヤだ。