第5章 終局
……実はチェインさん以外、皆ずぶ濡れである。
そら敵と一緒に濁流が流れてきたのである。
いくらスティーブンさんの血凍道で多少、水を消費しようと、皆が余波をひっかぶるのは免れなかった。
「おまえの今回の戦いには大きな問題点が一つある」
髪から水をぽたぽた落としながら、ザップさん。
よく考えるとザップさんの斗流血法との相性も悪いしなあ。あれは炎系だし。
「反省しております! なので次はもう少し水量の調整を――」
「技名を叫べ」
「へ?」
想像してなかったことを言われ、ポカンとする。
何を言ってるんだとザップさんを見ると、超大真面目な顔で、
「叫ぶんだよ! 技名を!!」
「え? ええ~? でも別に普通に水出しただけの初歩魔術だし、第一恥ずかし――」
「恥ずかしいとか言ってんじゃねえぞ! これはな! 超重要なことなんだ!!」
「え? ええ!?」
戸惑って周囲を見ると、チェインさん、クラウスさん、スティーブンさんまでが神妙な顔でうなずいていた。
そ、そういえば攻撃時に皆さん、技名叫んでるけど……あれって戦闘時の掟みたいなもんだったの!?
「忘れるなよ。次は絶対に! 技名を叫んでから攻撃しろ!」
『うんうん』とうなずく皆さん。
「は、はい……」
後じさりながら、同意するしかなかった。
でも水系の技って言われたって!
『水蛇撃!』とか『放水砲!』とか?……いやー! ダサいし恥ずかしい!
何でこんなどうでもいいことで、悩まなきゃいけないんだ!!
「大丈夫だ。カイナ。すぐに慣れる」
私の肩に手を置くクラウスさん。
その言葉は、技名の話の前に聞きたかった!
…………
そんなこんなで、日々はさらに過ぎた。
まだサポート役としてだけど戦闘に加わることも増えた――いまだに技名を叫べてないけど。
今はもう皆、私を普通にライブラの一員として扱ってくる。
クラウスさんとの仲も順調で、劇場に出かけたり二人で園芸店を回ったり、小旅行に出かけたりと楽しく過ごしてる。
私が本格的な魔術を学ぶという話もだんだん出なくなり、『独学で行ってもいいんじゃ?』的な雰囲気も漂い始めてきた。
そしてある日。
ついに来た。
私自身の決断の時が。