第1章 出逢い
「あー、なるほど不死者ね。そう言ってくれれば、こっちも作戦変えたのになあ」
スティーブンさんなるスーツの人は、あんまり笑ってない笑顔で苦笑する。
顔の傷がちょっと怖い。
「いや同じでしょ。結局、この馬鹿女を犠牲にする方向しかないでしょ、それ」
ザップさんにグリグリされながら、私は聖書をぎゅーっと胸に抱きしめる。
教会の敷地はイカの残骸でもう無茶苦茶である。
でも傷の人や、ザップさんなる人の攻撃ではなく、ほぼクラウスさん一人によるものらしい。
言うなれば狂戦士と化して、原型留めなくなるまでイカを殴り続けたそうな。私はその後、蘇生した。
そしてザッと誰かが私の前に立つ。
「ミス・シノミヤ……」
あ。クラウスさんだ。血まみれだ。
そして真のお説教タイムが始まる気がする。
私をこづいていたザップさんがスススと離れた。
怒られるだろうか。取り上げられるだろうか。
私は渡すもんかという勢いで聖書をギュッとして、座り込んだまま下がる。
けど、クラウスさんは片膝ついて私に目線を――合うわけがない! 片膝つかれたって、こっちも座ってるんだから結局見下ろされてる! 怖いな!!
ギュッと目を閉じて、ガタガタさせながらも身体を出来るだけ縮める。
殴られても蹴られても怒鳴られてもいいように身構えた。
「例えあなたに永遠の命という呪いが課せられていたとしても――」
一呼吸置く。
「私はあなたの死を囮に勝利を得たいとは、決して願わない。だからあなたにも自分自身の命を軽く考えて欲しくはない」
感情を込めずに淡々と語る。
「…………」
また涙がポロッとこぼれた。
「永遠ではないです。だから手放したくなかった――だって初めて出来た、私の『物』だったから」
何を言ってるか意味不明だろうなあ。私にもよく分からない。
でも私の物と言えるものは何もなくて、身体も、命すらも『組織』の物だ。
初めて誰かにもらった物を、無くしたり取られたりしたくない。
例えクラウスさんであっても。
肩をふるわせていると、大きな手が私の頭を撫でる。手だけで私の頭が包まれそう。
「私の贈った物を喜んでいただけて良かった。
そしてあなたとまた話すことが出来て、嬉しく思っています」
その声に涙腺がゆるむ。抱きつきたい衝動にかられたけど、グッと押さえた。