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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



 ライブラの皆でさえ、私を助ける可能性を放棄した。

 でも恨むつもりはない。他に方法が無いか全力で探した末の結論だと分かってる。

 彼らにだって大事なものがあるのに、それら全てを犠牲にして、新入りの私を優先してくれだなんて言えない。
 
 あのクラウスさんでさえ、一度は私を封印しかけた。
 でも私が魔術を使って大気中の水分を集めてると知ったら、態度をひるがえした。

 私の魔術の可能性に賭けてくれたのだと思った。

「私に才能があるから、それで何とかなると思ったんでしょう?」

「違う、カイナ」
 ついに泣き出した私の背を叩きながら、クラウスさんは言った。

「例え君に魔術の素養が一切なくとも、私は今、君を連れてここに居ただろう」
「?」
「私が君の密封を止めたのは、君自身が生きようとしていると分かったからだ」

「――――」

「覚えていないかもしれないが、ベッドで寝ていた君は、何度も苦痛と消滅への渇望を口にしていた」

 苦しい。消えたい。もう嫌だ。

 病室に一人立ち尽くすクラウスさんに、私はそう言ったのか。

「だから私も、時を止めることが君の望みだと――今から思えば短慮だった。浅慮だった!
 最大の愚考だった! 二度と私は、あんなことはしない!!」

 碧の眼光が、私の目を射貫く。

「君は苦痛から逃れたいだけであり、決して消えたいわけではなかったのだ。
 君の力の発動を、私はそう解釈した。ならば道はあると!!」

 
 私は生きようとしていたらしい。何も信じていなくとも、全てが怖くとも。
 生き汚く自分の存在方法を模索し、何が何でもそこに有ろうと。

 だからクラウスさんは喜んだ。私にまだ生きる意志があるのだと。
 迷惑だと一片たりとも思うこと無く、私を連れて外に出た。

「そこまでしていただいて、何も戦えないとか……」
 ここまで弁護され、なお醜い自虐が出るが。

「それは違う」
 クラウスさんはきっぱりと言う。

「君は私と出会う以前から、この世界に来たときから、いや、あるいは元の世界にいたときから一人で闘っていた」

「……闘ってなんかいないですよ。記憶希釈で嫌な記憶から逃げてるだけじゃないですか!!」

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