第5章 終局
クラウスさんが攻撃を止め、私のところに走ってくる。
「カイナ! ビルが崩れる。この機に乗じて離脱する!!」
防御陣が解けた。瞬間、私に向けて砲弾が四方八方から放たれるが、クラウスさんが私を抱え、間一髪抜けきった。
そして土煙を立てながら崩れるビルと共に、クラウスさんは、私をかばいながら落ちていった。
…………
…………
その地下駐車場はうち捨てられた場所らしい。
クラウスさんは私を抱え、ここまで逃げてきた。
私たちの周囲は、車どころか不法投棄されたゴミや廃材だらけだ。巨大なドブネズミや異界ネズミが走る、嫌な音。
汚いし、臭いがぜいたくは言えない。最近、抗争でもあったのか、幸い私たちの他に人の気配はないのだし。
しばらく隠れていられそうだ。
消えかけた電灯の明かりを頼りに、私はクラウスさんの傷に包帯を巻く。
「カイナ。これでいい。ありがとう」
「……はい」
「君こそ、痛みは。五感は無事かね。記憶の希釈濃度に変化は」
爆風と流れ弾で多少の怪我は負ったが、あの状況下では奇跡のような軽傷だろう。
もちろんクラウスさんはご自分の傷より先に、私の傷の手当てをしてくれた。
「耳がまだキーンとしますが、他は大丈夫です。いくつかの記憶はあいまいですが、私とあなたのことは覚えています」
「そうか。良かった」
頭を撫でられた。
「カバンから水のボトルと鉄分の錠剤を出してくれたまえ」
「はい」
ボトルを出すと、まず私に差し出してくる。
「飲みたまえ」
こんなときでもレディ・ファーストである。
私は仕方なく口をつけ半口だけ飲んだ。そして残りをクラウスさんに渡す。
「ありがとう」
クラウスさんはボトルの水を錠剤と共に半分だけ飲み一息つく。
私はボトルをカバンにしまい、クラウスさんにもたれた。
すぐに大きな手が肩に回され、抱き寄せてくれる。
「すまない。レディの君にこんな生活を」
「いえ、大丈夫です」
「明日は霧が深いとの予報だ。視界が悪いうちに遠くまで移動し、別の住居を探すとしよう」
「はい」
静かだ。クラウスさんの体温が暖かく、心音だけが聞こえる。
でも、これからどうなるんだろう。
まだ解除のかの字も終わっていないのに、状況は悪化する一方だ。