第5章 終局
「ガキを抱えて余裕だなあ、あんちゃん!」
「女置いてけ! 今なら生きたままミンチにするだけで許してやるぜ!」
裏街道の皆さんがゲヘゲヘと笑う。
生きたままミンチにされた経験が、過去に五回ほどある私は震え上がった。
しかしクラウスさんは相手にしない。さすがはクラウスさんだ!
「カイナ。カバンを持っていてくれたまえ。
39式――血楔防壁陣(ケイルバリケイド)!!」
クラウスさんの拳から展開される、見上げるように巨大な血の十字の防御陣。それは何本も空を突き破り、私を囲むように陣を作った。
こちらを囲む敵は、すでに得物を放つ寸前。
空間を切り抜くバズーカ砲やら、数千度で敵を焼き尽くす業炎放射器やら、ビルをも砕くパワードスーツやら。
あらゆる武器の見本市のような状況を前に、クラウスさんは私をかばい、生身で立ちはだかる。
「ブレングリード流血闘術――推して参るっ!!」
それが合図となり、戦闘が始まった。
轟音に次ぐ轟音。
場は激しい戦闘の渦中にあったが、私に出来ることは何もなかった。
私を守る防御陣は、少々の銃弾やミサイル、妖術魔術程度にはビクともしないけど。
「11式!! 旋回式連突(ヴィルベルシュトゥルム)!!」
十字の散弾に直撃された敵が、血と内臓をまき散らしながら、ビルから落ちていく。
でも援軍は後から後から来る。
「はぁ、はぁ……」
もう何時間戦っている。クラウスさんはさすがに息をつく。
身体から血がぽたぽた零れ、ビルのコンクリートに血だまりを作った。
けど決して膝をつかない。
時折私の安全を確認しながら、次の敵に攻撃を放つ。
「!!」
私のいる防御陣を狙ったナノニューク弾が、間近で炸裂した。
防御陣に近づこうとした別の異界人が、目の前で爆散する。
頭上のヘリコプターが私の頭上にミサイルを撃ち込む。
私は無事だったが、
「地面が……!」
ビルが大きく揺れ斜めに傾いた。私はバリケードにしがみつき、どうにか踏みとどまった。
バランスを取りきれなかった何人かが、ビルからバラバラと落ちていく。
クラウスさんは揺るがず、さらに鉄拳を連打し、数人を戦闘不能にした。
私は役立たず。頭をかばってヘタる事しか出来ない。
戦わない、戦えない、守られるだけの小娘。
戦ってない。