第5章 終局
クラウスさんは私を抱えたまま、老朽化したアパートの廊下を駆ける。
そんな私たちの真横やすぐ上を、銃弾やミサイルが飛び交った。
「おい! うるせえぞ、てめえら――ぐはっ……!」
騒音で顔を出した住人が、巻き込まれて吹っ飛ばされるのが見えた。
階段まで来た。
クラウスさんはそのままアパートの下――ではない。下は武装した奴らが群がってる。
「カイナ。つかまっていたまえ」
クラウスさんにしっかりしがみつくと、彼は階段を駆け上がる。
真下でまた大爆発。うわ、上の階段が爆発で吹っ飛んだ!!
階段の一部が、こっちに降ってくる!!
だけどクラウスさんは身体をかわし、落下する階段をよけると、左手に戦闘用のナックルを装備した。
「ブレングリード流血闘術32式――電速刺尖撃(ブリッツウィンディヒカイト・ドゥシュテェヒェン)!!」
ナックルから出た血液が、針のように鋭利な血の十字架を作る。
「ぐわ!!」
先鋭な血の剣がクラウスさんの拳から放たれ、それは、正面に現れた敵の心臓ごと貫通した。
その勢いのまま、敵は絶命。血の剣は勢いを減じさせず、彼を向かいのビルの壁面に串刺しにした。
「!!」
クラウスさんはアパートの手すりから跳躍。
さっきの血の剣を足場にし、上方にさらに跳んだ。軽業師のように、手すりや配管を手がかりに、壁をよじ登る。
そしてやっと靴が地面についた。
「……っ!!」
風が吹いている。上空は霧の雲。どこかの廃ビルの屋上みたいだった。
「クラウスさん……!」
抱えられてただけなのに、私はへたり込み失禁寸前であった。
爆風で髪がぼさぼさ。耳はキーンとして、少し聞こえにくい。
うわ、袖の端が焦げてる。
クラウスさんは不動だ。私を守るように直立している。
左手にナックル、右手にグローブを装着し、髪を爆風になびかせていた。
そして、ビルを囲むよう四方に現れた敵を睥睨(へいげい)している。
あまりに多勢にも無勢。クラウスさん一人なら突っ切れるだろう包囲網だが、今は私がいる。しかも足の予後が悪く、走れないのだ。
「心配しないでくれたまえ、この程度なら問題はない」
本心から言っているのか、私を心配させまいと、わざと楽観的なことを言ってるのか。
声や態度からは全く分からなかった。