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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



「休んでくれたまえ、カイナ。君は疲れている」

 うう。確かに二時間の完全集中後は、身体がガクッと疲れてる。でも休んでいる暇はないんだ。
 早く私の術式を解除しないと……。

「あ」

 タブレットを取り上げられた。クラウスさんはそれをそっとカバンにしまう。
 そして窓を開けた。暖かい風が入ってくる。

「休みたまえ。これは君の恋人からの要請である」
「ん……。はい……」

 そう言われたら、従うしか無いし。私はソファで力を抜く。
「ありがとう」とクラウスさんは言う。
 はあ。たった二時間の集中なのに、だらしない。
「ん?」
 クラウスさんがカバンを持って私に近づき、そっと私の腰に手を回した。

「跳ぶ。着地の衝撃に備えたまえ。舌を噛まないように」
 
「――は?」

 瞬間に、クラウスさんが駆ける。ジャンプして、そのまま、
「――え?」

 跳んだ。重いカバンと小娘一人抱えて。アパートとアパートの間を。跳んだ。

 状況に対応出来ずにいると、

「!!」

 真後ろで爆音。後ろを向くと、たった一分前までくつろいでいた私たちの小さな部屋が、窓から炎と煙を上げて激しく燃えさかっていた。
 窓辺の鉢植えが、火に包まれながら落下していくのが見えた。

 その炎の向こうから、雑多な武器を持ったガラの悪そうな人間やら異界の人やらが現れる。
 彼らは銃口をこちらに――。

「わっ!!」

 クラウスさんは真向かいの部屋に飛び込む。
 抱きかかえられたまま、ゴロゴロ床を転げた。
 わざとそういう部屋を選んだのかどうなのか、無人の部屋らしい。
 けどクラウスさんは私を抱え直し、ドアを蹴破り、すぐにその部屋を出る。
 一瞬遅れ、またも真後ろから轟音。小型ミサイルをブチ込まれたらしい。
 私を殺す気かっ!!

「な、なんで!? 私を生け捕りにした方がいいんじゃないですか!?」

 私は超上級神性存在を召喚する『生きた門』――もっと簡単に言えば、地球をぶち壊す核だ。

 呑気にアパートで暮らししてたが、今や表と裏のあらゆる勢力から狙われてる身なのだ。

「正確な情報を有している者はむしろ少数だろう。
 君を『殺さなければ神性存在が召還される』という誤情報に踊らされているのかもしれないし、己の手で終末のラッパを吹きたい愚者も混じっているかもしれない」

 世も末だなあ。
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