第1章 出逢い
イカの血が吹き上がり、スミの代わりに酸性の煙がもうもうと立ち上がって目が痛い。
「わっ!!」
私をつかんでる触手もぶっち切れ、私は宙を飛んだ――が、別の触手につかまれた。
うわ、勢いよく振り回され、上下がグルグル回る。遊園地のアトラクションってレベルじゃない。マジで吐くっ!! 聖書だけはしっかり胸に抱えながら、私はぐったりした。
「ちっ!」
間近で声がする。
「おい、そこのちっこいのっ!!」
顔を上げると、何か知らん銀髪で浅黒い人が、触手の上に立ち、すごい目で睨んでいた。
彼は目まぐるしく攻撃してくる何十本もの触手を相手に、蹴ったり切ったり殴ったりしながら、どうにかこっちに来ようとしてる。
こっちはもう振り回されヘロヘロだ。自分より三半規管が先に死ぬ~。
「あ、お、お構いなく……」
銀髪の変な人は、どうにかこっちに来ようとしては、触手の攻撃
「おまえ、旦那の女だろ? いいから、ソレ捨てて、こっちに手ぇ伸ばせっ!!」
だ、旦那? 旦那の女? 意味不明だ。
「早くしろ!! 俺はあっちの加勢に戻らなきゃいけねえんだよっ!!」
あっちとは? よく分からないけど、イカの中心部あたりで、何か氷の柱が上がったり、妙な巨大十字架が立ったりしてる。
「早くしろっ!! こっちに手を伸ばせっ!!」
ジェットコースターもかくやという風圧と旋回運動の中、銀髪の人が手を伸ばしてくる。
でもギリギリ距離が足らん。
私が聖書を捨てるか片手に持つかして、手をつかめば――。
私は触手に下半身をボキボキにされそうになりながら、銀髪の人に言った。
「あ、大丈夫ですんで。よく分かりませんが、あっちの加勢とやらに戻って下さい」
「は!?」
「この本重いから、片手で持ったら、落ちちゃうかも……」
「え? 馬鹿!?」
真顔で言われた。何か腹立つっ!!
巨大イカと『誰かさんたち』の戦いも大詰めらしい。
轟音と叫び声が教会の敷地に、派手に炸裂する。また一本、巨大氷柱が触手を絡め、粉々に砕く――けど、本体の破壊には至らない。
「馬鹿かっ!? 脳みそ空っぽか!? 命の方が大事だろ!!」
当たり前だが、銀髪の人はすごい怒っていた。