第5章 終局
「君の魔力を受け、水分子が気体へと状態変化をしたのだ」
何だかなあ。単に水を蒸発させただけ。派手でも何でも無い。
でも意識して使った、初めての魔術だ。
とはいえ、ちょっと呆然とする。
実は心のどこかで『全部クラウスさんたちの勘違いで、私は魔術も何も使えない一般人』と思ってたから。
い、いや、雑草は食ってたけど!
「……わっ!」
力がドッと抜け、クラウスさんの腕の中に倒れ込む。クラウスさんは私を受け止め、
「やはり君は『水』の属性があるようだ」
うーん。記憶の希釈と消化器官の変化。人体の構成は水に依るところが大きいから、まあ水系の魔術と言えないこともない。
それにしてもクソ地味だなあ。
「出来ないと思ったら、そこに留まるのを止めて、やり方を変えてみたまえ。そうすれば必ず道は開ける」
私の手を取り、熱く語る。
クラウスさん、『苦手教科を克服するより、得意科目を伸ばしましょう』派らしい。
でも水を動かしたり蒸発させて、攻撃魔法につなげられるのかなあ。
氷のオブジェを作るとか、クラウスさんを驚かせるようなことがしたかったなー。
……いや、『氷』はスティーブンさんの専門か。
今は一切相手にされていないが、奴とはいずれ出るところに出て決着をつけねばと(一方的に)思っている。『属性かぶり』だけは死んでもゴメンだ!!
「……て、うわ、二時間!?」
時計を見て驚いた。そんなに長いこと集中してたんだ。
「うむ。見事なまでの集中力だった」
「は、はは……」
クラウスさんは満足そうだが。
何ごとも最初は時間がかかるもの、と知りつつも『二時間でコップ一杯分の水を蒸発させただけ?』と内心の焦りは隠せない。
クラウスさんは電子書籍のタブレットを渡してくれる。
「君の次の学習に最適な魔術書を選定した。次はこれを読んでくれたまえ。では一休みしよう」
そう言って、紅茶を淹れるべく立ち上がるが。
「……カイナ。無理はいけない。休みたまえ。
休憩を入れない連続学習は記憶力が落ちる。むろん君の身体にも疲労が蓄積し、さらに能率が落ちる悪循環に陥る。
あらゆる研究結果が示している事実だ」
私がすぐタブレットを読み出したので、クラウスさんがそう言った。