第5章 終局
「チートじゃ無いんですか、私~」
「??? 君は何も不正行為(cheat)などしていないではないか」
クラウスさんは首をかしげる。
いやだって。今まで皆に素養がある、無意識に魔術とかスゲー、みたいな扱い受けてたからさあ。
『満を持して最初級魔術に挑戦!→失敗しました☆』のコンボで、早々に鼻柱をへし折られた。
私、もともと自分に自信が無いタイプですからぁ!!
「ふむ」
クラウスさん、私を抱っこしたまま立ち上がり、どこかに向かう。
どうするのかと思ったら、キッチンに行った。
片手でコップを持ち、蛇口をひねる。コップに透明な水が注がれた。
クラウスさんはそのコップを持ち、またソファまで移動すると、私をそっとソファに下ろした。そして言う。
「カイナ。何でもいい。この水を変えてくれたまえ」
「え。無理ですよ」
変えるって何に。アニメっぽい光の球を作るのが簡単そうだ。
「大丈夫。水でなければ、何でもいい。
どれだけ時間がかかっても構わない。私を信じてほしい」
「…………」
クラウスさんがそう言うのなら……。
私はテーブルに置かれたコップの水を見つめる。
といっても水は水だ。何をどうすればいいのか、さっぱり分からない。
見つめたところで可愛い女の子が生まれるわけでも、シュバーっと水柱が上がるわけでもなし。
けどクラウスさんがじっと私を見てるので、投げ出せない。
見る。コップの水をじっと見る。何も起こらない。
波紋さえ立たない。
そのうちに気づいた。
じっと見てるだけじゃダメだ。何か起こるのを待ってるだけじゃダメなんだ。
考えろ。何か出来ないか。何か。
水。万物の源。四大元素の一つ。化学式H2O。氷、水、水蒸気と形を変えるもの。
私の中で目まぐるしい思考の連鎖が起こり――やがて一つの解を見いだす。
目を閉じて。クラウスさんのことも、外の喧噪も全て忘れて。
コップの中の水に意識を集中する。意識が水に入り込む。
私は水と一体になる。私の周りで無数の水分子が動いている。
これをどうする?
どう……。
…………
目を開けた。
「素晴らしい!」
クラウスさんが拍手していた。
私は慌ててコップを確認する。
コップの水が無い。一滴も。
全て蒸発していた。