第5章 終局
平和だ。
霧深きヘルサレムズ・ロットでは、今日もどこかで爆音や銃声、奇声に嬌声。
だけど、このアパートは静かだ。
私はソファでクラウスさんにもたれ、厚いとはお世辞にも言えない本を読む。
子供向けに簡単な英単語やイラストが多用された本だけど、大人と一緒に読むのが前提なのか、難しい言葉もたまにある。
分からない専門用語を、クラウスさんに教わりつつ読む。
「この文章はこの解釈でいいんでしょうか?」
「正解だ。君はやはり理解が早い!」
えへへ。褒められて図に乗ってしまいそうになる。
わたくし、ダテに元の世界一の、魔術的素養の持ち主ではない。
思った以上にすらすら理解出来た。
ぶっちゃけ、英語を教わっていたときよりも、はるかにサクサク進む。
クラウスさんは私を見守りつつ、ご自分はタブレットの電子書籍を検索されている。
そこに入れられた何千冊という本の中から、私のため有効な本を探しているらしい。
一方、私は最終ページまで読む。ん? 最後だけちょっと毛色が違うな。今までのように『魔術とは何か~』みたいな内容ではなかった。
『そつぎょうしけん! 光のたまを作ってみよう☆』
可愛いクマさんのイラストが、”おとうさんおかあさんか、まほうのせんせいに ついててもらってね!”と笑顔でコメントしてるが……。
どうしよう。やっていいのかな。こんな本に載ってるくらいだから、一番安全な魔術なんだよね?
クラウスさんはタブレットに集中されてるな。私一人でやって驚かせたい。
うん。私はチートなんだ。出来るはず!
手の平に意識を集中し、光の球を……光を……。
……十分後。
「出来ないーっ!!」
本をぶん投げた。
手の平からは魔法っぽいものの片鱗も出やしなかった。
私、チートじゃないじゃんか!!
「どうしたのだね、カイナ」
驚いて本をパシッと受けとめるクラウスさん。
私はそのぶっとい首にすがりつき、
「クラウスさん。やっぱ無理です。才能無いんです、私」
クラウスさんは私の態度から、だいたい察したらしい。
「焦ってはいけない。君はこの本より、数十倍は高難度の魔術をすでに使っている。
分野が違えば習得時間も違って当たり前だ。落ち込むことはない」
よしよしと私を慰めてくれたのであった。