第5章 終局
「…………」
返答出来ずにいると、
「……。もしや、また先走ってしまっただろうか? 魔術を極めず一般人としての生き方を希望するのなら、スティーブンに――いや、その前にまず私の国に行って家族に君を紹介しなくてはな」
マジで先走りすぎだ、クラウスさん。
ご家族の件は聞かなかったことにするとして、ヘルサレムズ・ロットに住み続ける時点で、すでに一般ルートから大幅に逸脱してるのだが。
でもそれよりも……信じてくれるんだ。
私の未来を。この先が絶対にあるって。
「い、いえ。やはり魔術が使える方向で。あの、ではそろそろ始めたいのですが……」
神性存在によってかけられた術式の解除。
言うなれば神のパズル。その難易度は言うに及ばず、スティーブンさんたちですら解除を放棄したくらいだ。
しかし何をどう始めれば良いのか。
私はすでに複数魔術を無意識に並行発動してるらしい。
これは、どうも高等技術らしいんだけど、何せ無意識下でやってるので理論とか実践とかまるで分からない。
クラウスさんも表情を改め、眼鏡をかけ直した。
「まず基礎的なことを一通り知っておいた方がいい」
ええー、すぐにパパッと術式解除やりたいー。
そのためのチートなんじゃないの?
「遠回りに思えるかもしれないが、基礎は重要だ。必ず君の助けになる」
クラウスさんは荷物を探り、一冊の本を出した。
「あ」
『初心者のための魔術教本』
これを最初に見つけたのは、ライブラの書庫だったっけか。
魔導組織に拉致される直前にも読んでた本だし、何かと因縁を感じる。
何だかんだで、ちゃんと読めてはいなかったんだけど、中身はごく普通。
術士の家庭に育った子が、エレメンタリースクールの教科書と一緒に読むような本らしい。
「カイナ。この本のどの段階まで理解出来るか教えてくれたまえ」
「はい」
受け取ってペラペラめくり、改めてよく読む。
ふむ。ふむふむ。ふむふむふむ。
「クラウスさん、この箇所はこういう意味ですか?」
「うむ、その通りだ! 素晴らしい!」
思ったより簡単だな。
クラウスさんに褒めてもらえることに気を良くし、私は先に進んだ。